REVELATION DIRECTIVE[ラジオNIKKEI賞週:2020/07/04-05号]
掲載日:2020年7月3日
■開催競馬場:福島/阪神/函館
■開催重賞:ラジオNIKKEI賞/CBC賞
■執筆担当:吉田晋哉
-------------------------------------
<REVELATION RACE LIST>
■日曜 阪神5R 2歳新馬
■ラジオNIKKEI賞
-------------------------------------
平素は格別のご高配を賜り、厚く御礼申し上げます。
JTTC種牡馬部門担当の吉田晋哉です。
今週より2020年も下半期のシーズンを迎えるわけですが、7月13日14日にはセレクトセール2020の開催を控えております。
都内を中心に再び新型コロナウイルスの感染が拡大傾向にありますので、セレクトセールで現地入りを予定されているメンバー様におかれましては、くれぐれもご留意ください。
また、例年であれば、セレクトセール開催前後の日程で引退馬を労うため牧場見学を希望されるメンバー様もいらっしゃいますが、今年に限っては感染拡大防止のため入場制限が敷かれている牧場もございます。ご希望に添えない可能性がございますことを予めご理解いただけますと幸いです。
なお、現地入りせずに電話でのセリ参加を予定されているメンバー様におかれましては、松井をはじめ現地入りする当会のスタッフがアシスタント役として全面的にサポートさせていただきます。落札の際には例年通りご相談も承りますのでご安心ください。
さて、中央競馬におけるGI格のレースこそ、10月4日(日)のスプリンターズSまで約3ヶ月お預けとなるわけですが、今週5日(日)に控えるエクリプスS(英・GI)をはじめ、国内外の競馬界において目下進行中のパラダイムシフトはここからの数か月がまさに見せ場といえる絶頂期を迎えることになります。
幸いにして、当会に在籍しているメンバー様は「GIだけ楽しみたい」というような方はさすがにいらっしゃいませんので、パラダイムシフトの渦中にある2020年の夏競馬が重要な局面であることをゼロから説明するまでもないでしょう。
都知事選の行方に注目が集まる今週末2020年7月5日(日)は欧州で注目のGIが複数行われます。
フランスのシャンティイ競馬場では、「フランスオークス(ディアヌ賞)」の開催。
イギリスのサンダウン競馬場では、上述した「エクリプスS」が開催。
2012年の「ディアヌ賞」通称フランスオークスには、ディープインパクト産駒Beauty Parlour(ビューティーパーラー)が2着に好走しておりますが、今年はディープインパクト産駒Fancy Blue(ファンシーブルー)に世界も注目しています。
Fancy Blueの母Chenchikova(チンチコヴァ)はSadler's Wells(サドラーズウェルズ)産駒。
全兄には2002年2003年の欧州競馬で主役を張ったHigh Chaparral (ハイシャパラル)がいる良血馬です。
High Chaparral は2002年に英ダービー、愛ダービーと連勝。
凱旋門賞は2年連続3着だったものの、米国のBCターフを連覇するなどBIGタイトル6冠という実績を残した名馬です。
そのHigh Chaparralの全妹Chenchikova(チンチコヴァ)にDeep Impact(ディープインパクト)を配合させて誕生したFancy Blue(ファンシーブルー)が「ディアヌ賞」でどんな走りを見せてくれるのか楽しみが尽きません。
「ディアヌ賞」は、同じフランスのGI凱旋門賞などと比較すると国内では馴染みがないかもしれませんが、日本の生産界においては非常に重要視されている一戦です。
2009年優勝馬Stacelita(スタセリタ)
2010年優勝馬Sarafina(サラフィナ)
2014年優勝馬Avenir Certain(アヴニールセルタン)
2016年優勝馬La Cressonniere(ラクレソニエール)
近年の優勝馬である上記4頭は、いずれも社台ファームが購入し、現在は日本で繁殖牝馬として活躍中。
ラクレソニエールは現地フランスで繁殖入りした後に2019年より日本で繋養。今年2020年が日本で初めて種付けを行い、配合相手にはエピファネイアが選ばれました。
願わくは、ディープインパクトとの配合も視野に入れていたわけですが、残念ながらそれは叶いませんでした。ただし、ラクレソニエール以外の3頭は、いずれもディープインパクトが配合されています。
何のために社台ファームがフランスオークス馬を次々と購入しているのか、その目的は明確です。
ただし、いくら社台ファームとはいえ、海外のオーナーが、これだけの繁殖牝馬を日本に譲るからには、それ相応の理由があるわけです。
高額を注ぎ込めば、譲ってもらえるというような類の話でもありません。
吉田照哉氏の「人柄」は勿論ですが、金銭面以外の利権がトレードされているからこそ、フランスのクラシックGI馬が、繁殖として日本に渡って来ているのです。
同日にイギリスで行われる「エクリプス賞」には、日本のディアドラ(父ハービンジャー)が参戦します。
2017年2018年の凱旋門賞を連覇し、昨年2着だったエネイブルに挑む一戦。
2010年「キングジョージ6世&クイーンエリザベスS」を大勝したハービンジャーを種牡馬として購入した以上、国際舞台で活躍するハービンジャー産駒を輩出できなければ、日本の生産力に対して世界からはダメ出しをされるわけでして、ハービンジャーの海外巡りの裏側には生産したノーザンファームの意地があることもお伝えしておきましょう。
このキングジョージは、凱旋門賞同様に日本馬が勝つことができていない国際GIの1つ。
2006年にハーツクライが挑んで3着。
2012年にはディープインパクト産駒初のダービー馬ディープブリランテが挑戦し8着に敗れています。
先週は米国競馬界が日本競馬に「嫉妬」しているというエピソードをこの場でご紹介させていただきました。
一方で、欧州競馬界にしてみれば、日本調教馬が果敢に挑戦しながらも、「キングジョージ」、そして「凱旋門賞」を制することができていないため、日本に対しては「優位な立場にある」と思っているのが現状です。
欧州の牙城をどう崩すのか。まだまだミッションは多く残されています。
「ディープインパクト」という絶好の武器を手にしていた日本競馬界。
2012年ダービー馬ディープブリランテは、矢作芳人厩舎の管理のもと、その年にキングジョージに挑戦。
翌年のダービーは、佐々木晶三厩舎の管理馬キズナが勝ち、その年の秋に凱旋門賞挑戦。
ただし、いずれも頂点には届かず。
そして昨年夏、私どもは「ディープインパクト」を失いました。
ディープインパクトの血を受け継ぐネクスト世代で、再び挑戦し続けなければなりません。
血と血を巡り合わせて、最強の競走馬をつくり、世界の舞台に送り込み続ける。
私どもJTTCにとっても、成し遂げるべき課題は多岐に渡るわけですが、当会に在籍するメンバーの皆様には是非ともその過程も含めてお楽しみいただきたいと思います。
海外GIの話に時間を割いてしまいましたが、次週7月8日(水)には大井競馬場で、ジャパンダートダービーが行われます。
ユニコーンS週に、「ジャパンダートダービー」も「JAPAN ROAD TO THE KENTUCKY DERBY」の対象レースであることに言及しました。
ユニコーンSを制したAmerican Pharoah(アメリカンファラオ)産駒のカフェファラオが、このジャパンダートダービーに出走を表明したことで、米国関係者も注目する一戦となります。
一方でユニコーンS2着のデュードヴァンは、ここには出走せず8月の新潟で行われるレパードSに向かう方向で話が落ち着きました。
最近の日本競馬界におけるダート路線には、莫大な利権があり、将来的な価値という意味でも相当な可能性が算出されています。
絶対がない競馬とはいえ、「必然の決着」と言ってしまいたくなるレースの連続。
これまで当会が公開してきた「REVELATION DIRECTIVE」とともにレースをご覧いただければ、いまダート界で何が起きているのか、我々が明言せずともその意図はご理解いただけるはずです。
昨年暮れのチャンピオンズカップでの「クリソベリルとゴールドドリーム」のワンツー決着。
ヒヤシンスSで、カフェファラオが勝利。
青梅Sでは、デュードヴァンが勝利。
迎えたユニコーンSで帰結した「カフェファラオ→デュードヴァン」のワンツー決着。
そして先週6月24日(水)に大井競馬場で行われた帝王賞は、クリソベリルが難なく勝利しましたが、カフェファラオ同様にクリソベリルは米国からも高い評価が下されている1頭。今後の動向にご注目ください。
ここから先は、今週末の提供レースについて言及していきたいと思います。
セレクトセールは勿論のこと、あらゆる場面で巨額の利権がトレードされる時期を迎えることになりますが、この場でピックアップして触れられるレースも制限が厳しくなって参りました。
数ある提供レースのうち、今週は日曜日阪神の「2歳新馬戦」と「ラジオNIKKEI賞」の2レースのみ掲載許可を得るに至っています。
もう1つの重賞「CBC賞」はプライベートギフトの対象レースとなりますので、レース当日の配信情報を楽しみにお待ちいただければ幸いです。
それでは、日曜日に阪神【芝1600m】を舞台に行われる阪神5R 2歳新馬の一戦に触れていきたいと思います。
先週のダノンザキッドに続き2週続けて阪神の新馬戦に触れることになりますが、先週の新馬戦とはレースの背景が異なります。
まず1つ目のポイント。
「ディープインパクト産駒が1頭も出走しておりません」
ちなみに、新馬戦がスタートして早4週間が経過しておりますが、先週末までの段階で現2歳世代のディープインパクト産駒は僅か5頭しかデビューしておりません。
一方で、デビューを果たした5頭中「3頭」がデビュー勝ちを収めています。
父は亡くなりましたが、今年の2歳世代もやはりディープインパクト産駒が中心といった見方が強いのではないでしょうか。
無論、6月デビュー組のディープインパクト産駒は、デビュー戦向きの馬ばかりが「選ばれていた」ことは言うまでもありません。
話を本題に戻しますが、実は日曜日の阪神5Rの新馬戦には、あるディープインパクト産駒が出走を予定しておりました。
先週一度新馬戦に登録し除外されたため優先出走権を獲得。そのため今週の新馬戦に優先的に出走できる状態だった矢作芳人厩舎のタウゼントシェーンです。
阪神では出走しませんが、同日福島5Rの芝1800mで行われる新馬戦に向かうように「調整」されたのです。
タウゼントシェーンは、2歳牝馬。
関西馬がデビュー戦から福島まで輸送するのは、もちろんリスクがあります。牝馬ならなおさらです。
それでも阪神ではなく福島に送り込まれた理由。
グルーヴビート 牡2
父:ディープブリランテ
母:グルーヴァー
母父:シンボリクリスエス
馬主:サンデーレーシング
生産:ノーザンファーム
厩舎:矢作芳人(栗東)
タウゼントシェーン 牝2
父:ディープインパクト
母:ターフローズ
母父:Big Shuffle
馬主:社台レースホース
生産:社台ファーム
厩舎:矢作芳人(栗東)
どちらも矢作芳人厩舎が管理する2歳馬ですが、矢作師が育て上げたダービー馬ディープブリランテの仔グルーヴビートが阪神5Rに出走。
一方でタウゼントシェーンは福島5Rに出走。
社台ファーム(社台レースホース)とノーザンファーム(サンデーレーシング)の間で使い分けが行われた上で、ディープインパクトの直仔を出走馬から外したわけです。
言うなれば、矢作厩舎は「貸し」を作ったことになります。
そしてディープインパクト系の産駒は、グルーヴビートに加え、下記2頭が選ばれたわけですが、どちらも今回のマイル戦では、「出走すること」に重要な意味が込められています。
・コンヴェクトル 牡2
父:ディープブリランテ
母:グレイスファミリー
母父:タニノギムレット
馬主:佐々木主浩
生産:ノーザンファーム
厩舎:友道康夫(栗東)
・イリマ 牝2
父:キズナ
母:ヴェントス
母父:ウォーエンブレム
馬主:ノースヒルズ
生産:ノースヒルズ
厩舎:高橋亮(栗東)
2つ目のポイント。
レコードホルダーは、「ダイワメジャー産駒」のレシステンシア。
昨年の阪神JF勝ち時計1分32秒7。これが阪神芝1600m戦における2歳馬のレコードタイム。
仕上がり早で、スピードに勝るタイプが多い。ダイワメジャー産駒が2歳戦の早い時期から毎年のように活躍馬を出している要因となるわけですが、今回は3頭が送り込まれています。
・サンデージャック
2019年セレクトセール出身
落札金額:1億8360万円
馬主:杉野公彦
生産:ノーザンファーム
・テーオーダヴィンチ
2019年セレクトセール出身
落札金額:5616万円
馬主:小笹公也
生産:社台ファーム
・メジャーステージ
馬主:杉山忠国
生産:明治牧場
ディープインパクトの直仔を出走させず、「ダイワメジャー産駒」を複数送り込むことで、今回はレースが「締まる可能性」を高めることができるのです。
3つ目のポイント。
「宝塚記念を終えて、出走にGOサインが出た1頭」
宝塚記念ではバゴ産駒のクロノジェネシスが勝利したわけですが、その結果を受けて、下記1頭の出走にGOサインの指示が下されました。
・ステラヴェローチェ
2018年セレクトセール出身
落札金額:6480万円
父:バゴ
母:オーマイベイビー
母父:ディープインパクト
馬主:大野剛嗣
生産:ノーザンファーム
厩舎:須貝尚介(栗東)
各馬の出走経緯と上記した3つのポイントから、今回の新馬戦に隠されている「明確なメッセージ」を読み解いてみてください。
そして、福島競馬場で行われる3歳ハンデ重賞の「ラジオNIKKEI賞」。
こちらの各出走馬の詳細については、木曜日に公開された近況レポートをご覧いただいていることでしょう。
阪神5Rの「新馬戦」には、矢作師が育てたディープブリランテの仔であるグルーヴビートが出走するわけですが、「ラジオNIKKEI賞」には、佐々木師が育てたキズナの仔ルリアンが出走します。
デビュー戦から3戦連続で跨り続けてきた川田将雅騎手が、日曜日は阪神で騎乗するために、ルリアンの鞍上は「坂井瑠星騎手」に乗り替わります。
坂井瑠星騎手は函館に滞在しているため、初騎乗となるにも関わらずルリアンの追い切りには跨ることができていません。
そのため川田騎手が癖などをアドバイスしている状況。
坂井騎手は矢作芳人厩舎に所属しており、基本的には矢作厩舎の管理馬に優先的に騎乗することが基本方針となります。
実際、「ラジオNIKKEI賞」には、矢作芳人厩舎の管理馬パンサラッサがいるわけですが、そのパンサラッサではなく、他厩舎のルリアンに坂井瑠星騎手が騎乗することとなったわけです。
当然、師匠にあたる矢作師の指示でないことはお分かりいただけるはずです。
その上で、今年のラジオNIKKEI賞の出走馬を見渡すと、パズルのように見えてくると思います。
複数の「思惑」があるからこそ、「2頭出し」というペアが存在するのです。
【馬主2頭出し】
広尾レース
・パラスアテナ
・パンサラッサ
キャロットファーム
・ベレヌス
・グレイトオーサー
【厩舎2頭出し】
堀宣行厩舎
・サクラトゥジュール
・グレイトオーサー
矢作厩舎と堀厩舎周辺を巡り、そこに隠されているのはチームプレー。
★矢作厩舎が、なぜ坂井騎手をパンサラッサに乗せないのか。
★なぜ、坂井騎手はサンデーレーシングの所有馬で佐々木晶三厩舎のリルアンに騎乗するのか。
☆堀厩舎から出走する2頭は、いずれも前走はD.レーン騎手が騎乗。その上で、なぜD.レーン騎手はグレイトオーサーに騎乗するのか。
矢作厩舎と堀厩舎は、今年の皐月賞、ダービーで中心的役割を担った厩舎です。
コントレイル(矢作厩舎)
サリオス(堀厩舎)
JTTC監修BOOKS【ダービー大全】でも、この2つの厩舎に関する話がピックアップされていたわけですが、クラシック戦線を含め、利権に対して忖度が生まれているのが、この3歳世代の真相。
GIVEがあれば、TAKEもあります。
誰が誰に借りを作っているのか。
借りを作れば、返さなければなりません。
平易な言葉で語れば、それは恩返しともいえますし、勝負の世界で生きるからこそ、遵守すべき大切な事柄といえます。
皆様であれば、貸し借りの関係性、そしてなぜここで矢作厩舎と堀厩舎に触れる必要があったのか、きっとおわかりいただけると思っています。
今回の内容を受けて、メンバーの皆様がどのように解釈されているのか、週明けのRevelation Reportで言及するまでもなく、今週末のレースを通じ、知る側に回る優位性を実感いただければ幸いです。
JTTC日本競走馬育成評議会
種牡馬部門
吉田晋哉