皆様、お世話になっております。
JTTC種牡馬部門の執行役員を務めております吉田晋哉です。
最近、アスリートがよく口にする言葉に「再現性」というものがあります。
成功体験を偶然で終わらせることなく「必然」に昇華させる。その頻度が高いアスリートは超一流としてその世界のトップクラスに君臨します。競馬の世界でいえば武豊騎手やルメール騎手がそれにあたるでしょう。
彼らは言わずと知れた超一流。
偉大な足跡を残す超人なのですが、彼らも稀にミスをするケースは起こります。しかし、彼らには卓越した「再現性」がある。一例を挙げれば、まるで後続が金縛りにあったかのような武豊騎手の逃げ切り勝ち。これまで何度もお目にかかったシーンです。
再現性、という観点で競馬を紐解きますと、毎年リーディング上位騎手もリーディングトレーナーも顔ぶれは大きく変わりません。その一方で、長きにわたって低迷を続ける騎手や調教師が突如ジャンプアップする事例はゼロに等しい。仮にレース単位で大波乱や番狂わせが起きたとしても、長期スパンで捉えれば「確率は収束」する。
再現性を体内に仕込む超一流たる所以です。
上記を踏まえつつ、早速先週のレース統括に参りましょう。
3歳オープン、ハンデ重賞のラジオNIKKEI賞。戦前、我々が示していた見解は下記のとおりでした。
-----ラジオNIKKEI賞見解を引用-----
坂井騎手は矢作芳人厩舎に所属しており、基本的には矢作厩舎の管理馬に優先的に騎乗することが基本方針となります。
実際、「ラジオNIKKEI賞」には、矢作芳人厩舎の管理馬パンサラッサがいるわけですが、そのパンサラッサではなく、他厩舎のルリアンに坂井瑠星騎手が騎乗することとなったわけです。
当然、師匠にあたる矢作師の指示でないことはお分かりいただけるはずです。
その上で、今年のラジオNIKKEI賞の出走馬を見渡すと、パズルのように見えてくると思います。
複数の「思惑」があるからこそ、「2頭出し」というペアが存在するのです。
【馬主2頭出し】
広尾レース
・パラスアテナ
・パンサラッサ
キャロットファーム
・ベレヌス
・グレイトオーサー
【厩舎2頭出し】
堀宣行厩舎
・サクラトゥジュール
・グレイトオーサー
矢作厩舎と堀厩舎周辺を巡り、そこに隠されているのはチームプレー。
★矢作厩舎が、なぜ坂井騎手をパンサラッサに乗せないのか。
★なぜ、坂井騎手はサンデーレーシングの所有馬で佐々木晶三厩舎のルリアンに騎乗するのか。
☆堀厩舎から出走する2頭は、いずれも前走はD.レーン騎手が騎乗。その上で、なぜD.レーン騎手はグレイトオーサーに騎乗するのか。
矢作厩舎と堀厩舎は、今年の皐月賞、ダービーで中心的役割を担った厩舎です。
コントレイル(矢作厩舎)
サリオス(堀厩舎)
JTTC監修BOOKS【ダービー大全】でも、この2つの厩舎に関する話がピックアップされていたわけですが、クラシック戦線を含め、利権に対して忖度が生まれているのが、この3歳世代の真相。
GIVEがあれば、TAKEもあります。
誰が誰に借りを作っているのか。
借りを作れば、返さなければなりません。
平易な言葉で語れば、それは恩返しともいえますし、勝負の世界で生きるからこそ、遵守すべき大切な事柄といえます。
皆様であれば、貸し借りの関係性、そしてなぜここで矢作厩舎と堀厩舎に触れる必要があったのか、きっとおわかりいただけると思っています。
今回の内容を受けて、メンバーの皆様がどのように解釈されているのか、週明けのRevelation Reportで言及するまでもなく、今週末のレースを通じ、知る側に回る優位性を実感いただければ幸いです。
-----以上ラジオNIKKEI賞の見解を引用-----
「GIVEがあれば、TAKEもある」
競馬業界における貸し借りの関係性は時としてレース内容にもあからさまに反映されるケースがあります。特にセレクトセールが近づくこの時期はさまざまな思惑がう蠢くシチュエーション。平面ではなく、立体的な角度からレースを読み解く必要があるのです。
改めて、矢作厩舎=パンサラッサ、ルリアン。堀厩舎=サクラトゥジュール、グレイトオーサー。この4頭を中心にラジオNIKKEI賞を振り返りたいと思います。
<ラジオNIKKEI賞短評>
ゲートが開く。願わくはハナを切りたいパンサラッサが外から積極果敢に攻めるも、枠なりにバビットが先頭をキープ。位置を押し上げたことでパンサラッサはやや折り合いを欠くような素振りを見せましたが、さらに外からグレイトオーサーとレーン騎手が進出。
前に壁ができたことで落ち着きを取り戻したパンサラッサ。競馬ファンの多くは、この一連の挙動をごく当たり前のレースシーンとして流し見されていたと思いますが、グレイトオーサーとレーン騎手の進路確保に至る挙動は見る人から見れば、あまりにも不自然な動きに映ったはずです。
一方のサクラトゥジュールとルリアンに視点を転ずると、前者は終始後方で様子を窺うレース運び。対照的にルリアンはスタート後、何度も内をチラチラと確認・・・坂井騎手が「誰かのために」意図を含んだ競馬をしたいと望んでいたのは明らかです。
1コーナー付近でルリアンがとったポジションは1人気馬パラスアテナの半馬身ほど前。その結果、パラスアテナはこの日の馬場コンディションではノーチャンスといえる後方寄りに押しやられました。
これは武豊騎手にとって大きな誤算だったことでしょう。
1000m通過は59秒6。稍重の馬場コンディションを考えれば平均ペースと言えます。スローの上がり勝負しか経験のないグレイトオーサーはこのラップを刻まれた時点でジ・エンド。
なし崩し的に脚を使わされた後方待機組も同様で、このレースで言えばサクラトゥジュールがまさにその該当馬といえます。
このように、矢作厩舎と堀厩舎には「貸し借り」を目的とした緻密なプランニングを練っていました。バビットの道悪適正が想像以上ではありましたが、クラシック戦線を含め、利権に対して忖度が生まれているのがこの3歳世代の真相。
両者の間に貸し借りが生まれる構図は意図していた通りの結果に帰結し、結果的にも展開・馬場の利を得られる矢作厩舎所属◎パンサラッサに行き着いたメンバー様が大多数を占めたのではないかと推察しております。
なお、先週木曜日には【近況レポート】として全出走馬解説を掲載しておりましたが、事前にご一読いただけましたでしょうか?
-----ラジオNIKKEI賞近況レポートを引用-----
パンサラッサ(牡3歳・鹿毛)
父:ロードカナロア
母:ミスペンバリー
母父:Montjeu
生年月日:2017年3月1日
生産:木村秀則
馬主:広尾レース
厩舎:矢作芳人(栗東)
上記パラスアテナを所有する広尾レースがパンサラッサとの2頭出しを敢行。パンサラッサの母ミスペンバリーは、広尾レースを代表するような血筋で、半兄エタンダール(父ディープインパクト)は2012年に青葉賞2着からダービー8着とクラシック参戦を果たした。その全妹ディメンシオンは現在現役馬で牝馬重賞にも出走し活躍を続けている能力の高い馬である。パンサラッサはホープフルSや弥生賞にも出走してきたように、今年の出走メンバーの中では、明らかに格上相手に戦ってきた逸材。「中1週で輸送もあるので反応を見る程度。道悪になればさらにいい」と厩舎サイドも時計を要する馬場コンディションを待ち望んでいた。
バビット(牡3歳・栗毛)
父:ナカヤマフェスタ
母:アートリョウコ
母父:タイキシャトル
生年月日:2017年5月1日
生産:大北牧場
馬主:宮田直也
厩舎:浜田多実雄(栗東)
京都や阪神では勝ちきれなかったが、2走前に福島芝2000mに出走し勝ち上がると、昇級戦の前走は直線の長い新潟でフラつきながらも辛勝。口向きに課題があり、荒っぽさを残すが、2連勝で臨む初重賞出走に向けては陣営も秘策を用意している。「未勝利を勝った後にグンと良くなった。これだけの成長は珍しい。口向きが悪いので、今回はハミをリングハミに替える。結果も大事だけど、なによりも秋に繋がるような競馬ができるかどうかに重点を置きたい」とは厩舎サイドの言葉。馬具を工夫することも含めて操縦性の改善策が功を奏せば、さらなる前進が見込める。
ディープキング(牡3歳・鹿毛)
父:ディープインパクト
母:ダリシア
母父:Acatenango
生年月日:2017年3月21日
生産:社台ファーム
馬主:廣崎利洋HD
厩舎:藤原英昭(栗東)
昨年の菊花賞馬ワールドプレミアと同じ[父ディープインパクト×母父Acatenango]という配合の奥深さが魅力。半兄のAnimal Kingdom(アニマルキングダム)がケンタッキーダービーとドバイWCの優勝馬ということもあり、母ダリシアは相当期待された中、社台Fで繁殖入り。仔の多くは庭先の取引で里見氏が所有し続けていたが、本馬はセレクトセール2018に上場し廣崎氏が落札。同氏の代表馬でヴィクトリアマイルを連覇したストレイトガールと同じ藤原英昭厩舎が管理し、今回の鞍上には、そのストレイトガールをGI馬に導いた戸崎圭太騎手。実績面では他のメンバーに譲ったとしても、素質はここでもひけをとらない。「成長するのはこれからだが、期待は大きい」と藤原師が今秋の活躍を見込む1頭である。
-----以上ラジオNIKKEI賞の近況レポートを引用-----
優勝馬となったバビットについては、リングハミの装着により操縦性向上を期待する厩舎関係者の声を、2着パンサラッサについては所有する広尾レースの期待値がここまでのレース選択に反映されていた点を、3着ディープキングについては、昨年の菊花賞馬ワールドプレミアと同じ[父ディープインパクト×母父Acatenango]という配合馬であり、かつ管理する藤原師が寄せる称賛のコメントをご紹介しておりました。
レース後は嬉しい的中のご報告が多数寄せられましたが、「知る側に回る優位性」を理解いただいたからこそ得られた素晴らしい成果、お目が高いという他ありません。
[日]福島11R ラジオNIKKEI賞
プライベートランク:☆☆☆☆
<評価順>
◎11 パンサラッサ
○9 パラスアテナ
▲12 ルリアン
☆2 ディープキング
注1 バビット
△5 サクラトゥジュール
△8 グレイトオーサー
△3 アルサトワ
<結果>
1着 注1 バビット
2着 ◎11 パンサラッサ
3着 ☆2 ディープキング
3連複F:2万2480円的中[15点]
ラジオNIKKEI賞の読解をコンプリートできたとなれば、次に注目されるのが新馬戦。
なぜ、川田騎手はルリアンの騎乗を優先しなかったのか?
その答えは「どうしても乗りたい馬が阪神にいた」という結論に辿り着きます。
-----日曜阪神5R新馬戦の見解を引用-----
(中略)
3つ目のポイント。
「宝塚記念を終えて、出走にGOサインが出た1頭」
宝塚記念ではバゴ産駒のクロノジェネシスが勝利したわけですが、その結果を受けて、下記1頭の出走にGOサインの指示が下されました。
・ステラヴェローチェ
2018年セレクトセール出身
落札金額:6480万円
父:バゴ
母:オーマイベイビー
母父:ディープインパクト
馬主:大野剛嗣
生産:ノーザンファーム
厩舎:須貝尚介(栗東)
-----以上日曜阪神5R新馬戦の見解を引用-----
ノーザンファームがディープインパクト産駒の投入を見送ったこのレース。
函館、福島2場は同産駒がいるにもかかわらず不可解な判断に思われたでしょうが、クロノジェネシスと同じ「バゴ産駒」のステラヴェローチェは母父ディープインパクト。
宝塚記念と同じ稍重阪神芝でバゴ産駒を卸し、セレクトセールにおける母父ディープインパクトの価値向上を見越した「トレンドの先回り」を実行するノーザンファームの戦略性には恐れ入ります。
[日]阪神5R 2歳新馬
プライベートランク:☆☆☆☆
<評価順>
◎1 ステラヴェローチェ
○4 グルーヴビート
▲12 イリマ
☆10 コンヴェクトル
△5 ウインブランカ
△3 ウインリブルマン
<結果>
1着 ◎1 ステラヴェローチェ
2着 ○4 グルーヴビート
3着 ▲12 イリマ
3連単F:4050円的中[8点]
今週はセレクトセールを翌週に控える大事な週とあって、残念ながらこの新馬戦について多くを語ることは許されませんが、プライベートメンバーの皆様であれば本日18時ごろの発表を受け、この間数多くのご要望が寄せられていました「V200値」に関する案件が、ついに初お披露目の時を迎えたことをお気づきいただけたことでしょう。
「あの時と同じ」とのちに多くのメンバー様が気付かれるであろう「再現性」に満ちた仕掛けも施されています。
これを機に、改めて下記「JTTC監修BOOKS」を読み返していただくことを強くお勧めしたいと思います。
「サラブレッドを知らずして競馬を語るべからず」
執筆者:松井彰二
掲載日:2019年12月20日
今週のレポートは以上でございます。
JTTC日本競走馬育成評議会
執行役員 種牡馬部門
吉田晋哉