【結果総括】REVELATION REPORT「函館記念週レポート」
掲載日:2020年7月20日
皆様、お世話になっております。
JTTC種牡馬部門の執行役員を務めております吉田晋哉です。
今週も最後までお付き合いくださいますようお願い申し上げます。
さて、先日とある球団の選手が「スタメンでマスクをかぶった際の防御率」を理由に二軍降格の憂き目に遭いました。
※ここでいうマスクとは、キャッチャーが顔面保護を目的に装着するフェイスマスクをさします
さまざまな観点から「数値」が弾き出される野球と1レースで膨大な数字が計時される競馬はいわば親戚のような関係であり、馬主や調教師といった騎手にとっての【雇い主】が数字を無視することなどあり得ません。
先ほどの話には続きがあり、二軍降格を言い渡されたとある球団の選手。
試合直前に行われた定例ミーティングの指示を無視したことが、首脳陣の逆鱗に触れてしまったわけです。
これを競馬に置き換えますと、事前のミーティング=戦法の指示を愚直に守る騎手が重宝されるのは「当たり前」というお話。
函館リーディングを制した横山武騎手や存在感を示した団野騎手、福島リーディングまで1勝差の菅原明騎手などがその代表。
反対に経験豊富なベテラン騎手は良くも悪くも我が強い。
騎手という職業柄、勝つことより圧倒的に負ける回数が多いわけですが、その敗因について厩舎サイドであり馬主が理解を示しているケースとそうではないケースが存在する以上、常々「騎手」×「厩舎」×「馬主」のラインは意識する必要がありますし、騎乗頻度の上げ下げ、騎乗成績の上げ下げといった推移に着目することで、若手騎手とベテラン騎手の間に生じるパワーバランスの変化にお気づき頂けるはずです。
特に騎乗頻度の間隔に注視いただければ、敬遠されているのか、急接近しているのか、三者の関係性であり結びつきの強弱が手に取るように掌握いただけることでしょう。
今回、こうした人間模様であり、主従関係に言及している背景には、先週の【REVELATION DIRECTIVE】で示した「中京記念」そして「土曜・阪神12R」を振り返る上で、非常に重要な意味を持つからです。
これまでは競走馬を中心にレースを振り返る機会が多かったように思いますが、今回に限っては登場人物それぞれの視点に立ち返り、【負けても納得できるケース】の好例として、皆様それぞれの記憶に留めていただけばと思います。
まずは、酒井学騎手自身が「一番驚いた」と口にされていた『中京記念』について。
今年は桜花賞でおなじみの阪神芝1600mを舞台に行われたわけですが、【REVELATION DIRECTIVE】で示していた見解は下記のとおり。
-----中京記念見解を引用-----
3歳時にNHKマイルカップ優勝経験のあるケイアイノーテックが実績面では1番となるのでしょうが、「V200値」の推移をみるに、前走の安田記念と比べて上昇しているわけではありません。
よって、中京記念の本命馬はケイアイノーテックではありません。
ディープインパクト産駒で実績一番のケイアイノーテックが本命にならないということは、それ以上に重要な役割を担う出走馬が存在しているということです。
(中略)
また【矢作芳人厩舎】は、
ミッキーブリランテ(父ディープブリランテ)
エントシャイデン(父ディープインパクト)
この2頭を使い分けることなく、同時に中京記念に出走させます。
このあたりの使い分けの意図も想像してみてください。
最後に、NHKマイルカップで3着であった3歳牝馬のギルデッドミラー。
NHKマイルカップでは福永祐一騎手が騎乗していたわけですが、その福永祐一騎手は矢作厩舎のミッキーブリランテに騎乗します。
ギルデッドミラーの鞍上には、同じ“ユウイチ”でも、北村友一騎手を起用。
すべては書きませんが、上記に記したポイントから、「貸し借り」の構図が頭の中に浮かんできた方は、中京記念の全貌が見えてきたのではないでしょうか。
-----以上中京記念の見解を引用-----
これまでの【REVELATION REPORT】内でも何度となく発してきた「貸し借り」の重要性。
ここで改めて、直近1カ月の間に起こった「貸し借り」について、おさらいしておきましょう。
-------------------
阪神11R マーメイドS(GIII)
-------------------
プライベートランク:☆☆☆☆
1着▲サマーセント(7番人気)
2着◎センテュリオ(2番人気)
3着△リュヌルージュ(3番人気)
3連複 1万8460円的中(15点)
【斉藤崇史厩舎】
・リュヌルージュ
・サマーセント
【矢作芳人厩舎】
・オスカールビー
・マルシュロレーヌ
矢作師の管理馬オスカールビーが戦前の予想を覆し、控える競馬。マルシュロレーヌは道中に位置したサマーセントをバックアップしつつ後続からの進出をブロックする役割を全うし、斉藤師の管理馬サマーセントが勝利。
-------------------
福島11R ラジオNIKKEI賞
-------------------
プライベートランク:☆☆☆☆
1着注バビット(8番人気)
2着◎パンサラッサ(7番人気)
3着☆ディープキング(5番人気)
3連複2万2480円的中(15点)
【堀宣行厩舎】
・サクラトゥジュール
・グレイトオーサー
【矢作芳人厩舎】
・パンサラッサ
・ルリアン
やや折り合いを欠くような素振りを見せたパンサラッサをカバーするように、1コーナー過ぎに外からグレイトオーサーとレーン騎手が進出。前に壁ができたことでパンサラッサは落ち着きを取り戻し、ルリアンは1人気馬パラスアテナのポジションを馬場の悪いインに押しやる役割を全う。
ここで思い出していただきたいのが春競馬。主役は紛れもなく矢作師が管理するコントレイルでした。ジェンティルドンナやショウナンパンドラ、マリアライトなど牝馬のディープインパクト産駒が複数GIタイトルを獲得する一方、牡馬はやや早熟のマイラータイプを量産。ダービー馬も古馬になってから尻すぼみの傾向が強く、馬産地の評価はキングカメハメハ・ハーツクライ・ロードカナロアと双璧を成す程度にとどまっておりました。
志半ばのまま、ディープインパクトは昨年急逝。残された産駒に課せられた使命は「文句のない超大物」を生み出すこと。絶対に逃してはならないミッションを実行したのがこの春競馬だったというわけです。
確実なミッション遂行には準備が必要です。そのためチーム・ノースヒルズはコントレイルのヴィクトリー・ロードを作るべくレースをコントロール。サリオスにとっては不遇だったかもしれませんが、この「返し」は早ければ秋競馬に訪れることでしょう。競馬界はこうした流れで常に動き続けます。
日本ダービー→マーメイドS→ラジオNIKKEI賞。
そのすべてに【矢作厩舎】が絡んでいる事実。
ここまで申し上げれば、中京記念で我々が◎を打った馬がエントシャイデンであることは必然と言えるのではないでしょうか。
[日]阪神11R 中京記念
プライベートランク:☆☆☆☆☆
<評価順>
◎18 エントシャイデン
○12 ミッキーブリランテ
▲11 ソーグリッタリング
☆13 ラセット
注7 ケイアイノーテック
△15 ギルデッドミラー
△10 プリンスリターン
△4 トロワゼトワル
<結果>
1着無14 メイケイダイハード
2着☆13 ラセット
3着◎18 エントシャイデン
3連複F:38万2480円不的中[22点]
エントシャイデンの伏線は直前に行われた阪神10Rにあります。このレースにおける【不穏な動き】。お気付きになられたでしょうか?
矢作厩舎所属のスマートセラヴィーという出走馬。
これまでダート戦を主戦場としていながら、約1年ぶりの芝レース参戦。
鞍上はエントシャイデンを託した川須栄彦。
メインレースへの予行演習として今後訪れる「返し」を含ませたうえでオーナーサイドを口説き落とした経緯を持ちます。
もうひとりのキーマンが福永祐一。
コントレイルを二冠馬に導いたジョッキーもまた重大な役割を担っていました。
福永騎手は朝一番、そして昼休みと時間があればその日の馬場コンディションを自らの足でチェックしています。
レース後コメントとしても馬場に言及したものが多く、彼の通る進路がヴィクトリー・ロードであったレースは数知れず。
そんな福永騎手が直線の長い外回りコースで無謀にも思える大まくり→早め先頭を敢行、ミッキーブリランテを中心視していた競馬ファンからすれば、あまりにも強気な騎乗姿勢に映ったことでしょう。
しかし、今回のこの強気な騎乗姿勢こそが、矢作厩舎二頭出しの最大の理由でありエントシャイデンを浮上させるための戦術でした。
「春競馬でお世話になった矢作厩舎×ノースヒルズへの恩返し」
彼に与えられたミッションは先行勢を潰し、一瞬の脚に磨きがかかってきたエントシャイデンをアシストすること。
愛弟子の坂井騎手にとっては荷の重い役割を買って出た福永騎手。彼がこの世界においてトップランナーで居続ける理由が垣間見えるというものです。
誤算があるとすれば、度を超えたハイペースゆえに激流に慣れたスプリント適正上位馬をも引き連れてしまったことでしょう。
出走馬のうち2019年以降、スプリント戦での連対歴を持つのは勝ち馬メイケイダイハードとプリンスリターンの2頭のみ。
レース後「あそこで動いたのは判断ミスでした」と語った福永騎手。そのコメントがファンに向けられたものなのか、それとも・・・答えは述べるまでもないかと思います。
とはいえメンバー様からは、
「中京記念はエントシャイデンの複勝1点で取れました!」
「函館記念は非常に残念なレースとなりましたが、見解に矢作厩舎のエントシャイデンと堀厩舎との使い分けについて言及されている描写があり、もしやと思い購入したエントシャイデンからのワイドで37.5倍の返しを得ることができました。貴重な情報を開示いただき感謝申し上げます。」
このような嬉しいお言葉を頂いております。
メイケイダイハードを除けば印上位馬が掲示板独占たる結果であっただけに、何とももどかしいレースとなってしまいましたが、この「借り」はしっかり返さなければと胸に強く刻み込む所存でございます。
悔しさが残った中京記念とは対照的に、会心の結果をお届けできたのは土曜阪神12R。
こちらも【REVELATION DIRECTIVE】で示していた見解をご覧ください。
-----土曜阪神12R見解を引用-----
セレクトセール直後の競馬開催日に施行されるレースとして、まず注目すべきは土曜日に阪神芝1600mで行われる「3歳以上1勝クラス」の一戦。
コロナ禍の影響で、見学目的の者の入場が制限されていた今年のセレクトセール。
その場に居合わせた競馬関係者の実態はといえば、巨額資本を保有している方、生産界においても上位20%に相当する権力のある方ばかり。
レースの格は、「1勝クラス」ですが、重賞や特別戦よりも「重み」のあるレース背景なのです。
いくつかポイントをあげます。
出走馬18頭の中には、
今年のセレクトセールで、2頭の億超えを含む延べ7頭を落札した廣崎利洋氏が所有するオーマイダーリン(父ディープインパクト)。
シーヴの2019を5億1000万円で落札した国本哲秀氏が所有する(有)湘南名義のショウナンラペット(父ロードカナロア)。
初めて参加した2017年セレクトセールで3頭の良血馬の落札に総額6億7500万円を投じた(株)DMM.comが所有するエターナルハート(父キングカメハメハ)。
近年のセレクトセールで上客という立場で参戦している馬主の所有馬がいることに注目ください。
そして、今年の当歳馬セールで高額落札が目立ったハーツクライ産駒の1頭として、ゴドルフィンが所有する【ミッドサマーハウス】も出走メンバーとして受け入れられています。
また、この一戦で肝になるのは、今年は1頭も落札しなかった冠名エアのラッキーフィールドが所有するエアファンディタ(父ハットトリック)という存在。
日高の救世主ともいえる冠名メイショウの松本好雄氏の所有馬メイショウベッピン、メイショウハナグシの2頭出し。
これだけなら、「ただのレース」になってしまうわけですが、
<サンデーレーシング>
ヴィルトゥース(ジェンティルドンナの全妹)
カヴァス
<G1レーシング>
クレデンザ
<シルクレーシング>
ゼアブラヴ
アーデンフォレスト
<キャロットファーム>
シャルロワ
<東京ホースホースレーシング>
レッドブロンクス
社台・ノーザンファーム系のクラブ法人馬が7頭送り込まれています。
この7頭中3頭が、ダートからの芝参戦というどこか違和感のあるローテーションが組まれているだけでなく、1200m戦が主戦場のゼアブラヴが、ここに来て急にマイル戦に送り込まれているわけです。
出走目的に明確な意図があるからこそ、強引に送り込むわけですが、セレクトセール直後の競馬開催日という事情からもわかるように、セレクトセールを主導している組織の思惑通りにレースが進むように組まれていることは明言するまでもないでしょう。
ただの1勝クラスの平場戦のようで、「2021年以降のセレクトセールに向けてのメッセージ」が発せられる一戦なのです。
セレクトセールで「競走馬を売る」立場になったことを想像してみると、何をすべきかが明確にわかるはずです。
-----以上土曜阪神12Rの見解を引用-----
なぜ我々が一般の競馬ファンから注目されていない平場のレースをピックアップしたのか?
答えは言うまでもないかと存じます。
・2頭の億超えを含む延べ7頭を落札した廣崎利洋氏が所有するオーマイダーリン。
・今年は1頭も落札しなかった冠名エアのラッキーフィールドが所有するエアファンディタ。
・社台・ノーザンファーム系のクラブ法人馬が7頭送り込まれている違和感。
ストレイトガール、レッツゴードンキなど非社台ノーザングループの馬での活躍馬を多く所有した廣崎利洋氏。
この方針のもとオーナー生活を続けるのかと思いきや、現4歳世代から大きな方向転換を迎えました。
突如としてセレクトセールで高額馬を落札しだしたのです。
・ディープサドラーズ(牡4・約1億5000万)
・ワイワイキング(牡3・約1億3000万)
・ハナビマンカイ(牡3・約9000万)
・ディープキング(牡3・約8600万)
・キングインパクト(牡3・約8400万)
上記5頭はいずれもディープインパクト産駒。
厩舎は上から順に藤原英、矢作、藤原英、藤原英、藤原英。
歴代のダービートレーナーの手腕に託す念の入れようですから、はっきりとその視線の先に「日本ダービー」が映ります。
◎オーマイダーリンはそんな廣崎利洋氏の所有馬。
レースは直線で進路を切り替えるロスにゴール前の不自然な扶助が祟ったことで3着に敗れましたが、しっかり馬券内を確保。
3連複3点提供での的中、回収率950%に確かな貢献をはたしています。
[土曜]阪神12R 3歳以上1勝クラス
プライベートランク:☆☆☆☆
<評価順>
◎5 オーマイダーリン
○9 エアファンディタ
▲15 アーデンフォレスト
☆10 エターナルハート
注2 メイショウベッピン
<結果>
1着▲15 アーデンフォレスト
2着○9 エアファンディタ
3着◎5 オーマイダーリン
3連複:2850円的中[3点]
波乱のフィナーレを迎えた3場開催が終わり、今週から舞台は札幌・新潟へ。
函館→札幌開催における変化は少ないように思われますが、夏の中京開催を勝負所と睨んだ陣営にとって、新潟は待望のローカル【左回り開催】です。
なかでも注目に値するのが「新馬戦」。
・2016年→リスグラシュー
・2017年→アーモンドアイ、ラッキーライラック
・2018年→ロジャーバローズ
クラシック戦線をけん引するA級馬が続々とデビューしているこの開催、実は今年の宝塚記念勝ち馬クロノジェネシスも元々新潟で初陣を迎える予定だったのです。
ローカル開催の新馬戦と見くびるなかれ、来年に向けた陣営の目論みを想像してみてください。
今週のレポートは以上でございます。
JTTC日本競走馬育成評議会
執行役員 種牡馬部門
吉田晋哉