REVELATION DIRECTIVE[秋華賞週:2020/10/17-18号]
掲載日:2020年10月16日
■開催競馬場:東京/京都/新潟
■開催重賞:府中牝馬S /秋華賞
■執筆担当:吉田晋哉
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<REVELATION RACE LIST>
■土曜 東京11R 府中牝馬S
■日曜 京都11R 秋華賞
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平素は格別のご高配を賜り、厚く御礼申し上げます。
JTTC種牡馬部門担当の吉田晋哉です。
とうとう、この週がやってまいりました。
牡馬牝馬ともに、無敗の二冠馬が臨む最後の関門となる秋華賞、そして菊花賞。
もちろん競馬は1頭だけで行う興業ではありません。
デアリングタクト、コントレイルという存在だけでなく、他の馬たちに託されているミッションがあるということも念頭に置きながら、両GIをお楽しみいただきたく思います。
「楽しむことファースト」
この言葉は、内部監査室長の宇野さんがよく口にする言葉です。
GIシーズンに入ると、GIの結果に一喜一憂してしまうのが、競馬ファンの性。
当会で、競馬を共にお楽しみいただいているメンバーの皆様には、刹那的にレースの結果だけを見るのではなく、そこで残された決着が「未来にどのように繋がっていくのか」も想像するように向き合うことを推奨致します。
なぜ、このようなお話から入らせていただいたのかというと、4年前にあるGIで残された結果が、4年後の今、すなわち未来を切り拓くことになったからです。
実際に、切り拓かれたのです。
最近のニュースで、皆様が注目された話題はどのようなことでしょうか。
Go Toキャンペーンの話題。
11月3日に迫る米国大統領選の動向。
アップル社の新製品発表。
読売ジャイアンツ菅野投手、開幕からの連勝記録が13でSTOP。
国内の政治的な話から国際政治やスポーツの話題など様々なことが取り上げられていた中で、そのニュースが価値のあるものであるかどうかは、受け取る側の考え方次第のところもあります。
普段の生活や娯楽の優先順位が高い方であれば、「Go Toキャンペーン」に関することやアップル社による新型アイフォンの発表も気になっていたことでしょう。
その上で、たとえ同じニュースだとしても、「株価」を気にしながら普段過ごしている方と、そうでない方とでは、アップル社の新製品発表がどのような効果を生み出すのか、その想像した内容は大きく異なっているはずです。
スポーツ、特に野球に興味がある方は、火曜日に読売ジャイアンツのエース菅野智之投手が開幕から続いていた無傷の13連勝という記録が途絶えたこともご存知だと思います。
さすがに連勝記録はいつか途絶えるものですので、負けたからといって悲観することもなく、「負けた後」にどう立て直していくのかが大切です。
2005年にディープインパクトが無敗の三冠馬として挑んだ有馬記念では2着に敗れたことで、連勝記録が途絶えたわけですが、その後の復帰戦では、さらに強さが増していました。
負けた時に得られるものは、決して無駄にはなりませんし、勝つためには負けを受け入れる精神力も兼ね備えていかなければなりません。
話を戻します。
4年前のGI。
2016年の阪神JFを優勝した馬の名前を、すぐに思い出すことはできますでしょうか?
答えは藤沢和雄厩舎のソウルスターリングです。
ソウルスターリングによる阪神JF優勝は、国内だけでなく世界が注目した一戦。
14戦無敗のまま引退したフランケルの仔として、初めてGIタイトルを獲得したのが、ソウルスターリングによる阪神JFでした。
サンデーレーシング(ノーザンファーム)
・ミスエルテ(父フランケル)
社台レースホース(社台ファーム)
・ソウルスターリング(父フランケル)
フランケルの初年度産駒として、社台グループが所有した牝馬2頭。
いずれかで「GI制覇」を成し遂げるべく、牝馬限定の阪神JFに2頭とも送り込むのではなく、ミスエルテは牡馬との混合GI朝日杯へ、ソウルスターリングを阪神JFに出走させて、意図的な使い分けを行っておりました。
フランケルの父はガリレオ(Galileo)です。
ガリレオの血は、近年の凱旋門賞を席巻し続けていることからも世界的なトレンドとなっているわけですが、日本では苦戦しているのが現状です。
日本だけガリレオの血がフィットしていないわけですが、その理由の1つは、もちろん「日本の馬場」も影響しています。
とはいえ、ソウルスターリングとミスエルテを活躍させたかったのは、フランケルに内包されている【父ガリレオ(Galileo)×母父デインヒル(Danehill)】の血を日本に導入するため。
「日本は合わない」というイメージを払拭するという意味でも、世界で初めてフランケル産駒がGIを勝った国が、日本であるという歴史的事実が残された功績は、未来に生きたのです。
フランケルの導入。
本丸はこれが叶えば最高だったわけですが、さすがに欧州の競馬界が、それを簡単に許すわけがありません。
実に4年かかったわけですが、いま皆様にお伝えしたいビッグニュースは、これです。
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フランケルの全弟ノーブルミッションが、
種牡馬として来年から日本に導入決定!
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さすがにフランケルの導入は難易度が高すぎますが、同じ血統のノーブルミッションを日本に導入するというのは、10年後を見据えた先行投資としては非常に価値があります。
しかも注目いただきたいのは、導入したのは社台スタリオンステーションがではなく、河野洋平氏が会長理事を務める軽種馬協会なのです。
河野洋平氏は、現行政改革担当大臣を務める河野太郎氏の実父。
米国からノーブルミッションを購入できたというのは、殊勲モノです。
ノーブルミッションは、現役時代に欧州でGIを3勝。
欧州での種牡馬入りも検討されたわけですが、同じ市場では同じ血統のフランケルと競合となってしまうため、チャンスを拡大すべくアメリカの名門レーズンエンドファームで2015年に種牡馬入りしました。
現在11歳のノーブルミッション。
これから種牡馬としてのさらなる活躍が見込める時期に、日本に導入できたことは新しい歴史が作られていく号砲といっても過言ではないでしょう。
社台グループがサンデーサイレンスを導入した際には、「サンデーの仔は日本では走らない」と言われた評価が覆されたのが日本競馬の歴史です。
なぜサンデーサイレンス産駒が、日本で走ったのか。
それでは偶然ではなく、走るように方向転換が図られたから。
歴史が動く時は、それまでの常識が常識ではなくなるのです。
ノーブルミッションの日本導入というニュース。
これに価値を見出せる方と、そうではない方が思い描く未来予想図は異なります。
同じ出来事でも受け止め方によって、活かせる範囲が異なります。
いま起きている目先のことではなく、10年後の将来を見据えた話として受け止めていただけましたら幸いです。
ソウルスターリングがGI馬となっていなければ、ノーブルミッションの日本導入については、世界がNOを突きつけていたはずです。
歴史が動いた瞬間。
それが4年前の阪神JFであったのです。
ノーブルミッションの導入は、日本競馬界が世界に対して【本気】であることを表明したと考えていただきたく思います。
フランケルおよびノーブルミッションの所有馬主は、ハーリド・ビン・アブドゥッラー氏。
サウジアラビアの王族ですが、エネイブルの馬主でもあります。
どこで、この話が最終的にまとまったのか。
あえて明言しませんが、ノーブルミッションの日本導入が発表されたのは、凱旋門賞を終えた後の10月9日でした。
レースの結果によって、歴史が変わる。
それをわかりやすく示した例が、今回の一件ではないでしょうか。
日本の馬場が、10年後にはどのように変わっているのか。
この変遷をリアルタイムで追っていける者だけが、10年後に先駆者利益を得ることができているはずです。
皆様には長くご愛顧いただきたく思います。
まだまだお話しておきたいことは沢山あるのですが、キリがありませんので、今週の競馬に関する話に移行します。
今週の2つの牝馬重賞について触れます。
府中牝馬Sと秋華賞。この2つのレースの背景は「対局にある」ということは最初にお伝えしておきたいと思います。
まずは土曜日に行われる府中牝馬S。
東京芝1800m戦で行われる一戦ですが、
10月11日(日)毎日王冠(芝1800m)
10月17日(土)府中牝馬S(芝1800m)
10月24日(土)富士S(芝1600m)
少なくとも、この3戦をセットにしてご覧いただきたいのです。
ひと通りの出走馬を見れば、浮き彫りになるいくつかの違和感。
先週の毎日王冠には、1頭だけ牝馬が出走していました。
藤沢和雄厩舎が管理し、キャロットファームが所有するコントラチェックです。
同じ芝1800m戦ですので、毎日王冠ではなく府中牝馬Sに出走する方が、まだ上位に好走するチャンスがあるということは言うまでもありません。
府中牝馬Sには出走することが許されず、毎日王冠では積極的な仕掛けでレースを作る役割を全うしておりました。
府中牝馬Sは8頭立てですので、除外になる可能性もありません。
それでも、事情により出走することはできなかったのです。
一方で、ここまで徹底してマイル重賞路線を歩んでいるトロワゼトワルは、次週の富士Sではなく、1ハロン距離を延ばして府中牝馬Sに参戦。
ヴィクトリアマイル→関屋記念→京成杯AHというローテーションで、牡馬相手の重賞にも出ていたように、「牡馬との戦いを避けるために富士Sに出ない」といったことはなく、意図的に府中牝馬Sに送り込まれるのです。
「コントラチェックが追い出された」ということは、「キャロットファーム」が追い出されたという一戦でもあります。
その上で、出走を許された8頭は下記の通りです。
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1枠1番 シゲルピンクダイヤ
父:ダイワメジャー
母:ムーンライトベイ
馬主:森中蕃
生産:天羽牧場
2枠2番 ダノンファンタジー
父:ディープインパクト
母:ライフフォーセール
馬主:ダノックス
生産:ノーザンファーム
3枠3番 フェアリーポルカ
父:ルーラーシップ
母:フェアリーダンス
馬主:山本剛士
生産:ノーザンファーム
4枠4番 サラキア
父:ディープインパクト
母:サロミナ
馬主:シルクレーシング
生産:ノーザンファーム
5枠5番 ラヴズオンリーユー
父:ディープインパクト
母:ラヴズオンリーミー
馬主:DMMドリームクラブ
生産:ノーザンファーム
6枠6番 シャドウディーヴァ
父:ハーツクライ
母:ダイヤモンドディーヴァ
馬主:スリーエイチレーシング
生産:ノーザンファーム
7枠7番 トロワゼトワル
父:ロードカナロア
母:セコンドピアット
馬主:社台レースホース
生産:社台ファーム
8枠8番 サムシングジャスト
父:ヴィクトワールピサ
母:ツルマルオトメ
馬主:グリーンファーム
生産:那須野牧場
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8頭中6頭がノーザンファームの生産馬。
1頭が社台ファーム。
さらにグリーンファームが、社台ファームが提携するクラブ法人です。
すなわち8頭中7頭が、社台グループとの関連がある馬なのです。
これほどまでに、出走登録の段階から露骨に忖度されているレースというのは、なかなか見受けられるものではありません。
独裁という言葉が相応しいでしょうか。
キャロットファームだけでなく、サンデーレーシングの所有馬も出走させていないというのもポイントです。
個人馬主が所有する馬は4頭、クラブ法人の馬も4頭という比率。
その中に隠されている明らかな偏り。
トロワゼトワルを送り込むことによって得られる恩恵という名の貸し借り。
それが生まれる一戦として、想像すると、明確なものが見えてくるはずです。
続いて、秋華賞。
こちらは多くを語る必要もないと思いますし、逆に言えば、多くを語ることもできない一戦です。
昨年を振り返ると、
1着◎クロノジェネシス
2着○カレンブーケドール
3着△シゲルピンクダイヤ
このような決着でした。
サンデーレーシング所有のクロノジェネシス(父バゴ)が勝利。
1番人気ダノンファンタジー(父ディープインパクト)が8着というレースでした。
この世代(現4歳世代)のオークスは、
1着ラヴズオンリーユー(父ディープインパクト)
2着カレンブーケドール(父ディープインパクト)
3着クロノジェネシス(父バゴ)
4着ウィクトーリア(父ヴィクトワールピサ)
5着ダノンファンタジー(父ディープインパクト)
このような着順で、ディープインパクト産駒のワンツー決着。
その後に行われた3歳牝馬最終決戦の秋華賞には、オークス馬ラヴズオンリーユーは出走することなく、ディープインパクト産駒を指標としながらバゴ産駒のクロノジェネシスが最後の一冠を勝利。
今年も指標となるべく、ディープインパクト産駒が多数出走するというのが、レース背景としてはポイントと言えましょう。
ディープインパクト系(10頭)
・ミヤマザクラ(父ディープインパクト)
・リアアメリア(父ディープインパクト)
・ソフトフルート(父ディープインパクト)
・サンクテュエール(父ディープインパクト)
・マジックキャッスル(父ディープインパクト)
・オーマイダーリン(父ディープインパクト)
・マルターズディオサ(父キズナ)
・ダンツエリーゼ(父キズナ)
・フィオリキアリ(父キズナ)
・アブレイズ(父キズナ)
エピファネイア産駒(2頭)
・デアリングタクト
・ムジカ
ステイゴールド系(2頭)
・ホウオウピースフル(父オルフェーヴル)
・ウインマイティー(父ゴールドシップ)
その他(4頭)
・クラヴァシュドール(父ハーツクライ)
・ミスニューヨーク(父キングズベスト)
・パラスアテナ(父ルーラーシップ)
・ウインマリリン(父スクリーンヒーロー)
ここまで露骨なほどに指標となるディープインパクトもしくはキズナ産駒が送り込まれているレースです。
クラヴェル(父エピファネイア)
レイパパレ(父ディープインパクト)
キャロットファームの上記2頭は抽選の結果除外となってしまい、ここでもキャロットファームは犠牲となったわけですが、ここ最近は黒子役のような形に徹しているキャロットファームが飛躍する場は、もちろん他に設けられていることはお伝えしておきます。
またローズS4着であったデゼル(父ディープインパクト)は早々に秋華賞回避を表明していたわけですが、レイパパレ、デゼルも秋華賞に出走していたとすれば、ディープインパクトとキズナ産駒で最大12頭ということになっていた可能性もあるのです。
同世代のディープインパクト系を贅沢にも指標として揃えたうえで、行われる今年の秋華賞。
ここに「デゼルを出走させない」というのは、友道厩舎に預託している社台ファームのプライドとも言えます。
歴史を振り返った際に、
・どのような馬を相手にして勝ったのか。
ここが指標になることは言うまでもありません。
揃えられる役者は揃ったといえるのが18頭フルゲートの面々ではないでしょうか。
連勝記録はいつか途絶えるものではありますが、それが果たしていつになるのか。
まずは無敗の二冠馬デアリングタクトが三冠をかけて挑む秋華賞は、リアルタイムでご覧いただき、「楽しむことファースト」の精神で見届けましょう。
JTTC日本競走馬育成評議会
種牡馬部門
吉田晋哉