REVERATION DIRECTIVE[きさらぎ賞週:2021/0206-07号]
掲載日:2021年2月5日
■開催競馬場:東京/中京/小倉
■開催重賞:東京新聞杯/きさらぎ賞
■執筆担当:松井彰二
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<REVELATION RACE LIST>
■特別寄稿
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恩赦競走の予定の無い週末ではあるが、それを「谷間の週」と認識していただくわけにはゆかない。
その意味でも、今週は通常のREVERATION DIRECTIVEとは趣向を変えてお届けしてゆきたいと思う。
突然の話ではあるのだが、本年のクラシック路線に向けた裏側について少々このタイミングでお話しておきたいことがある。
昨年に続くコロナ禍での「ROAD TO DERBY」となりそうな本年。
オリンピックに向けても暗雲が立ち込めている状況で、世界に目を見渡しても競馬業界だけは大きな打撃を受けずに開催を続けている印象を持っている方も多いだろう。
しかしながら、その現状はそれほど楽観視できる状況ではない。
海外事業部に異動となった宇野からの報告でも、その現状はすさまじく、世界の競馬の中でも日本競馬だけが高水準で維持している事が分かる。
例えば競馬発祥の地である英国。
英国ジョッキークラブのグループCEOネヴィン・トゥルーズデール氏が2月1日に発した警告は英国競馬の未来を憂うものであり、非合法市場に押しやられた賭事客が引き起しかねない競馬の公正確保に関する懸念、そして英国競馬が国際的な競争力を失う危険性についても、同氏は言及した。
その警告の元となったのが「賭事客に対して厳密な経済力チェック(affordability checks)を行うという提案」がなされたからである。
簡単に言えば「収入や預金」の調査を競馬ファンに向けて行うという事である。
この提案に競馬ファンの93%が「経済力を確認するために口座収支報告書を提出することに不満である」と答えている。
何を申し上げたいか?
この提案がまかり通る事は、合法的な馬券売り上げから競馬ファンを遠ざけ、違法な賭事業者に資金を向かわせル可能性が高く、ひいては、八百長などの公正確保を欠く事への引き金となりかねないという懸念が不安視されているのである。
英国の競馬場は2020年に無観客開催のために2億5,000万ポンド(約362億5,000万円)以上の収入を失ったと、競馬界は見積もっている。賞金総額は対2019年比42%減という最低基準まで落ち込んでいる。
また、欧州の生産大国でもあるアイルランド。
ホースレーシングアイルランド(HRI)が2020年競馬産業統計を発表したことで、新型コロナウイルス感染拡大がアイルランド競馬にもたらした赤裸々な現実が明らかになった。
宇野からの報告によれば、アイルランド競馬に関しては2019年と比較して
■入場人員:91%減
■場内発売金:89%減
■賞金総額:23%減
■スポンサー契約金:69%減
■セリ売り上げ:35%減
と惨憺たる状況なのである。
この状況下にありながらも開催日数はほぼ維持できているが、これはひとえに「馬主」の貢献が大きい。
現在アイルランドでは約4000人のオーナーが存在しているが、賞金減の現状においても「預託頭数」を維持し、厩舎関係者に関しての最低限の預託料を維持させている。
英国、愛国でこのような状況が続いている状況で、いま日本競馬界が「超法規恩赦」期間に突入している事の意味をご理解いただきたい。
笠松競馬場で起きた関係者の馬券購入事件。
限りなく黒に近い金沢競馬場での様々なオッズ異常問題。
こういった事が、日本だけで行われているかと言えば、そうではないことは海の向こうの話であったとしても、「人間の業」は、万国共通である。
その最中に日本では売り上げを維持し、セリの売り上げは近年でも1.2を争う高水準で推移した。
簡単に申し上げれば、海外から「日本モデル」が見直されているのである。
さて、なぜこの時期に宇野が海外事業部に転籍となったか。
ご理解頂けただろうか?
海外のホースマンがブックメーカーを通して日本の馬券を購入することはたやすい。
しかも、日本のパリミューチェル方式で発売されているオッズに影響を与えず、資金を確保できるとなれば、利用しない人はいない。
「JTTC Global Membership」
答えを申し上げれば、上記の設立のためである。
この、動きを評価してくれた英国愛国のメンバーが中心となって後押ししてくれた事が、超法規期間の延長措置が下されたことの背景に大きく関与している事はこの場で申し上げておきたい。
その上で、本年のクラシック路線には「海外競馬」の視線が、例年以上に日本競馬に向く事となる。
本場英国愛国のホースマンの視線が、未勝利戦レベルから注がれることは、日本の種牡馬ビジネスや馬産ビジネスに大きな影響を与えることとなる。更に申し上げれば、2025年に向けて「中国競馬」が動き出すことがまことしやかにささやかれている。
世界の競馬産業が「中国資本」の参入に熱い視線を送っている中、私どもJTTCとしても、このタイミングで「Global Menbership」の輪を広げる事は必達事項として、最重要ミッションに掲げているほどである。
その様な中で現3歳世代の牡馬を見れば
■朝日杯FS優勝馬
グレナディアガーズ
父Frankel
母父 Harlington
■朝日杯FS2着馬
ステラヴェローチェ
父バゴ
母父ディープインパクト
■ホープフルS優勝馬
ダノンザキッド
父ジャスタウェイ
母父Dansili
■ホープフルS2着馬
オーソクレース
父エピファネイア
母父ディープインパクト
と、2歳GIの連対馬の血統は欧州競馬ファンでも馴染みの深い馬名が並んでいるのだ。
つまり、現在の海外ブックメーカーからしてみても、日本競馬の馬柱は非常になじみが深く、世界のどの競馬開催国の馬柱よりも売りやすいと言えるのである。
例えば今週末行われる東京新聞杯。
ディープインパクト産駒「6頭」を筆頭に、ドバイシーマクラシックを制したハーツクライ産駒が2頭、Kジョージ6世&QESを制したハービンジャー産駒が2頭、更にはドバイターフを制したジャスタウェイ、スプリント界のレジェンドロードカナロア、2004年のカルティエ賞最優秀2歳牡馬Shamardal、といった世界に名を轟かしている種牡馬のみならず、母父にも海外の著名馬がずらりと並んでいる。
また、それはきさらぎ賞も同じ。
ハービンジャー、オルフェーヴル、ディープインパクト、ノヴェリスト、キズナ、ドゥラメンテ、ゴールドシップと、リオンディーズ産駒のトーセンクライマーを除くすべての種牡馬が海外競馬参戦組、もしくは、欧州からの輸入種牡馬である。唯一該当しなかったトーセンクライマーですら、母父はサドラーズウェルズ系のニューアプローチである。
この様な背景の最中、2021年の英国は「ロイヤルアスコット開催を各日7競走施行で規模拡大する」という発表が行われた。
ロイヤルアスコット開催は英国王室主催の競馬開催である。
この開催拡大はまさに「恩赦競走」と背景を同じくする歩みと見て間違いなく、今まさに、世界各国が共生・救済の潮流に覆われている事の証であると言える。
その様な中、先日プライベートメンバー様に発表させていただいた恩赦期間延長の決定。
更には、その対象レースに「共同通信杯」が組み込まれている事。
そして、現段階では公表が許されていないが、トライアルレースが活発化される3月開催。
またフェブラリーS週にはサウジC、3月末にはドバイ、と国際競走も一気に熱を帯びてくるわけである。
もう一度今週に目を戻せば、例えば、エルフィンSに出走する「エリザベスタワー」などは、
父Kingman
母ターフドンナ
母父Doyen
という、英国生まれの外国産馬であり、英国や愛国のホースマンのみならず競馬ファンですら違和感なく中心視できる様な血統背景を持つ馬も居るわけである。
これはあくまで一例ではあるが、この超法規恩赦期間の1つの基軸に「Global Member」の存在がある事。つまりは、「海外視点からでもなじみが深い馬」に関しては、常に意識してその動向を把握しておいていただきたいのである。
今週は、ここまでとさせていただくが、最後に宇野からの伝言をお伝えし、今週のREVERATION DIRECTIVをしめさせていただく。
「バタバタと日本を後にし早一か月が経ちましたが、世界競馬の現状はあまりにも日本の現況とはかけ離れています。それは名門ファーブルやオブライエンに関しても他人事ではなく、深刻な状況にある事は間違いありません。世界の競馬産業を下支えするべく、私も粉骨砕身の覚悟で今回のミッションを全うする所存。超法規恩赦の恩恵を日本のみならず世界に発信し、日本競馬が果たすべき役割に全力を傾けたいと思います。メンバーの皆様に於かれましても、どうぞ体調管理にはお気を付けいただき、この超法規期間の粋を味わっていただきたいと存じます」
宇野の大車輪の働きもあって超法規期間の延長にこぎつけた今。
メンバーの皆様にも、是非、一段ギアを上げた準備をしておいていただきたい。
JTTC日本競走馬育成評議会
松井彰二