REVELATION DIRECTIVE
REVELATION DIRECTIVE[函館記念週:2020/07/18-19号]
掲載日:2020年7月17日
■開催競馬場:福島/阪神/函館
■開催重賞:函館2歳S/函館記念/中京記念
■執筆担当:吉田晋哉
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<REVELATION RACE LIST>
■土曜 阪神12R 3歳以上1勝クラス
■日曜 阪神11R 中京記念
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平素は格別のご高配を賜り、厚く御礼申し上げます。
JTTC種牡馬部門担当の吉田晋哉です。
今週「REVELATION DIRECTIVE」の場で触れることが許された2つのレース。
セレクトセール直後の競馬開催日に施行されるレースとして、まず注目すべきは土曜日に阪神芝1600mで行われる「3歳以上1勝クラス」の一戦。
コロナ禍の影響で、見学目的の者の入場が制限されていた今年のセレクトセール。
その場に居合わせた競馬関係者の実態はといえば、巨額資本を保有している方、生産界においても上位20%に相当する権力のある方ばかり。
レースの格は、「1勝クラス」ですが、重賞や特別戦よりも「重み」のあるレース背景なのです。
いくつかポイントをあげます。
出走馬18頭の中には、
今年のセレクトセールで、2頭の億超えを含む延べ7頭を落札した廣崎利洋氏が所有するオーマイダーリン(父ディープインパクト)。
シーヴの2019を5億1000万円で落札した国本哲秀氏が所有する(有)湘南名義のショウナンラペット(父ロードカナロア)。
初めて参加した2017年セレクトセールで3頭の良血馬の落札に総額6億7500万円を投じた(株)DMM.comが所有するエターナルハート(父キングカメハメハ)。
近年のセレクトセールで上客という立場で参戦している馬主の所有馬がいることに注目ください。
そして、今年の当歳馬セールで高額落札が目立ったハーツクライ産駒の1頭として、ゴドルフィンが所有する【ミッドサマーハウス】も出走メンバーとして受け入れられています。
また、この一戦で肝になるのは、今年は1頭も落札しなかった冠名エアのラッキーフィールドが所有するエアファンディタ(父ハットトリック)という存在。
日高の救世主ともいえる冠名メイショウの松本好雄氏の所有馬メイショウベッピン、メイショウハナグシの2頭出し。
これだけなら、「ただのレース」になってしまうわけですが、
<サンデーレーシング>
ヴィルトゥース(ジェンティルドンナの全妹)
カヴァス
<G1レーシング>
クレデンザ
<シルクレーシング>
ゼアブラヴ
アーデンフォレスト
<キャロットファーム>
シャルロワ
<東京ホースホースレーシング>
レッドブロンクス
社台・ノーザンファーム系のクラブ法人馬が7頭送り込まれています。
この7頭中3頭が、ダートからの芝参戦というどこか違和感のあるローテーションが組まれているだけでなく、1200m戦が主戦場のゼアブラヴが、ここに来て急にマイル戦に送り込まれているわけです。
出走目的に明確な意図があるからこそ、強引に送り込むわけですが、セレクトセール直後の競馬開催日という事情からもわかるように、セレクトセールを主導している組織の思惑通りにレースが進むように組まれていることは明言するまでもないでしょう。
ただの1勝クラスの平場戦のようで、「2021年以降のセレクトセールに向けてのメッセージ」が発せられる一戦なのです。
セレクトセールで「競走馬を売る」立場になったことを想像してみると、何をすべきかが明確にわかるはずです。
続いて、日曜日に同じく阪神芝1600mを舞台に行われる「中京記念」。
例年であれば左回りの中京競馬場で行われる重賞ですが、今年は阪神競馬場が舞台。
そしてサマーマイルシリーズの2戦目にあたります。
第1戦の米子Sで2着だったラセット、3着ミッキーブリランテもポイント加算のために参戦。
前走GIに出走していた馬は、NHKマイルカップに出走していた3歳馬ギルデッドミラー、プリンスリターンの2頭。
ヴィクトリアマイル4着以来となるトロワゼトワル。
安田記念5着以来のケイアイノーテック。
GI組もいるわけですが、3歳時にNHKマイルカップ優勝経験のあるケイアイノーテックが実績面では1番となるのでしょうが、「V200値」の推移をみるに、前走の安田記念と比べて上昇しているわけではありません。
よって、中京記念の本命馬はケイアイノーテックではありません。
ディープインパクト産駒で実績一番のケイアイノーテックが本命にならないということは、それ以上に重要な役割を担う出走馬が存在しているということです。
なお、サマーマイルシリーズ第3戦は、8月16日に新潟競馬場(左回り)で行われる関屋記念。
中京記念と関屋記念の使いわけも重要なポイントです。
例えば、池江厩舎。
池江泰寿厩舎が管理するサトノアーサー(父ディープインパクト)は次走関屋記念を予定。
同じく池江厩舎の管理馬でノースヒルズの所有馬ジャンダルムも同様に関屋記念を予定。
サトノアーサーとソーグリッタリングの2頭は、エプソムカップで厩舎2頭出しを行っていたわけですが、ソーグリッタリングを中京記念に出走させます。
また【矢作芳人厩舎】は、
ミッキーブリランテ(父ディープブリランテ)
エントシャイデン(父ディープインパクト)
この2頭を使い分けることなく、同時に中京記念に出走させます。
このあたりの使い分けの意図も想像してみてください。
最後に、NHKマイルカップで3着であった3歳牝馬のギルデッドミラー。
NHKマイルカップでは福永祐一騎手が騎乗していたわけですが、その福永祐一騎手は矢作厩舎のミッキーブリランテに騎乗します。
ギルデッドミラーの鞍上には、同じ“ユウイチ”でも、北村友一騎手を起用。
すべては書きませんが、上記に記したポイントから、「貸し借り」の構図が頭の中に浮かんできた方は、中京記念の全貌が見えてきたのではないでしょうか。
さて、コロナ禍の中行われたセレクトセール2020でしたが、終わってみれば総額187億6100万円という昨年の205億1600万円に次ぐ史上2位の売り上げを記録。
総額の売上金額だけを見れば、世界がコロナ禍にあることを踏まえても、「大盛況」だったと一応は言えますが、セリ全体の動向からは、来年以降の取引に向けて課題を残していることを再認識する2日間となりました。
これから間違いなく、加速していくことになる現象の一つに、種牡馬毎の好走傾向に関する「調整=コントロール」があげられます。
今年のセレクトセールを簡潔に総括させていただくと、ほぼ想定通りではあったのですが、高額で取引されたのは1歳馬のディープインパクト産駒と当歳馬のハーツクライ産駒に偏りました。
ディープインパクト産駒は今年の1歳世代が事実上のラストクロップになりますので、ラスト世代という稀少価値も相俟って、落札馬12頭のうち9頭が1億円超えの高額落札が続出。
またハーツクライ産駒は、36頭中7頭が1億円超えで取引されました。
一方で、キングカメハメハ系の種牡馬で億超えの取引となったのは、
ドゥラメンテ産駒3頭(落札27頭)
ロードカナロア産駒2頭(落札35頭)
キングカメハメハ産駒2頭(落札8頭)
ディープインパクトとキングカメハメハが亡くなり、ハーツクライはキングカメハメハと同世代ですので高齢。
この結果からも、総売り上げこそ歴代2位とはいえ、今後はディープインパクト産駒、キングカメハメハ産駒はおらず、ハーツクライ産駒も先は長くないわけです。
一方で、今年2020年はロードカナロア、ドゥラメンテともに種付け料が上がりました。
ロードカナロア
2020年 2000万円
2019年 1500万円
2018年 800万円
2017年 500万円
ドゥラメンテ
2020年 700万円
2019年 600万円
2018年 400万円
2017年 400万円
今年セレクトセールで取引されたの産駒は、2018年(1歳)2019年(当歳)に種付けされた世代になりますので、ロードカナロアの種付け料が2000万円に設定された世代は来年の当歳から上場されることになります。
とはいえ、来年からロードカナロアの仔がディープインパクト産駒のように高額になるかといえば、「そうはならない」という見立てが現実的でしょう。
ハーツクライ
2020年 1000万円
2019年 800万円
2018年 800万円
2017年 800万円
この間、800万円で種付けされた世代のハーツクライ産駒の方が、ロードカナロア産駒よりも高く売れるということが、今年のセレクトセールで浮き彫りになったのです。
「今まではディープインパクトの仔を買えばGIやクラシック・・・という方程式があったが、これからはそうはいかない」
「米国でノーザンダンサーがいなくなった後のように、日本も超高額馬が出にくくなった。」
「繁殖牝馬のレベルが昔と比べて上がっている。どの種牡馬が走るか分からない時代がくる。競馬がある限りいい馬を提供できる魅力あるセールでありたい」
セレクトセールを終えて、日本競走馬協会会長代行の吉田照哉氏が残したいくつかの言葉。
『どの種牡馬が走るか分からない時代がくる』とは言っているものの、当会のメンバー様の中には、さすがにこの言葉を鵜呑みにしている方はいらっしゃらないでしょう。
ディープインパクトがいずれ亡くなることは当然想定しており、ディープインパクト産駒が活躍しているのと同時に、世界中から繁殖牝馬を買い集めていたわけです。
『繁殖牝馬のレベルが昔と比べて上がっている』というのは、世界レベルの繁殖牝馬を集めているから当然の話。
「どの種牡馬が走るか分からない時代がくる」
この言葉の真意は、
『いま抱えている繁殖牝馬には、どの種牡馬をつけても走らせることができる』
という自信の現れなのです。
サンデーサイレンス産駒の偏り。
ディープインパクト産駒の偏り。
これらは結果論で残された異常な偏りではなく、「調整」による成果。
これからどのように好走傾向が「調整」されていくのか、皆様には当事者として体感し続けていただく時代が今から続くのです。
以前に、
「ヒエラルキーマネージメント」
という言葉を何度か発したことがありますが、種牡馬のヒエラルキーマネージメントがこれから加速していきます。
※ヒエラルキー・・・ピラミッド型の階層組織
日本競馬界の史実として、過去にあった事例を改めて認識することを推奨します。
この場で語るにはあまりにも長くなり過ぎますので、JTTC監修BOOKSの【パラダイムシフトの渦中にある世界競馬】を改めて読み直してみてください。
特に、第二章の『「作られた」種牡馬』は、この時期だからこそ、もう一度熟読することを強く推奨させて頂きます。
これを知らずして、吉田照哉氏が「どの種牡馬が走るか分からない時代がくる」というメッセージを発した後、これからの日本競馬界の本質は見えてくるはずがないのです。
今週は以上となります。
JTTC日本競走馬育成評議会
種牡馬部門
吉田晋哉