REVELATION DIRECTIVE
REVELATION DIRECTIVE[セントウルS週:2020/09/12-13号]
掲載日:2020年9月11日
■開催競馬場:中山/中京
■開催重賞:紫苑S/京成杯AH/セントウルS
■執筆担当:吉田晋哉
-------------------------------------
<REVELATION RACE LIST>
■土曜 中山11R 紫苑S
■日曜 中京11R セントウルS
-------------------------------------
平素は格別のご高配を賜り、厚く御礼申し上げます。
JTTC種牡馬部門担当の吉田晋哉です。
今週から中央競馬の舞台は「中山競馬場」、「中京競馬場」へと移り、GIに向けたトライアルシーズンがスタート。
例年であれば阪神競馬場のタフな舞台で、「セントウルS」「ローズS」「神戸新聞杯」という主要なトライアル重賞が続々と行われていく過程で、秋のGIシーズンが近づいてくる様を感じるわけですが、今年は阪神ではなく、中京でメイントライアルが繰り広げられていきます。
夏から秋へと一気に様相が変貌していく季節。
秋競馬の開幕となる今週は秋華賞トライアルの「紫苑S」が土曜日の中山競馬場で、スプリンターズSに向けてのステップレースである「セントウルS」が日曜日に中京競馬場で行われます。
トライアルは文字通り、GIに向けての「権利獲り」であり、賞金を持っている馬の陣営にしてみれば「ひと叩き」の一戦に位置づけているわけですが、
特にこの時期だからこそ、当会のメンバーの皆様には、
「メディアの言葉は、あまり真に受けない方が良い」
ということだけは、警鐘を鳴らしておきたいと思います。
「調教抜群」という言葉。
このような飛びつきたくなってしまうかもしれませんが、「一旦STOP」することを心がけて、鵜呑みにしないようにする癖をつけておいた方が良いかもしれません。
某クラブ法人の所有馬に出資されているメンバー様もいらっしゃいます手前、具体的な馬名や厩舎名を残すことはしませんが、
「調教の動きが良いって言われてしまっているけど、帰厩した際には体が減って戻ってきた。牧場側も馬体減りはなく成長しているなんてことをメディア通じて言わせているみたいだけど、実際のところは戻ってきてから馬体を緩めて戻しているから、春と比べると一枚も二枚も落ちるよ。これくらいでもし勝ってしまうようなことがあれば、秋華賞も楽しみになるけど・・。そんな甘くないと思う」
このような話も入ってきているのです。
某クラブのオフィシャルサイト内では、会員向けに「良い状態」と言っているとのことで、「実際には馬体が減っている」という真相は厩舎サイドからは言えないそうで、鍛え上げての馬体増ではなく、緩めた上で馬体をふっくらさせているという話。
それでいて太刀が悪いのは、調教ではそれなりの時計が出ているということ。
調教時計というのは、実際のレースとは異なるため、「やり過ぎれば」速い時計はどの馬も出るのです。
それをレース本番に向けて余力を残しておくために、時計を出しすぎないようにセーブされていることが多いわけですが、セーブしなければ時計はコントロールできてしまいます。
「状態良好」
「調教抜群」
この言葉が2つ並んでしまえば、「買い!」と勘違いしてしまうのは、馬券をご自身で組み立てて購入したことがある方であれば、経験もあることでしょう。
表向きには、クラシックやGIレースは『真剣勝負』である一方で、華のある舞台に出走させることが宣伝となるため、本番での勝ち負け云々ではなく、「出走させることだけ」に重きを置いているケースも珍しくありません。
長年、競馬と向き合っているメンバーの皆様に対して、今更このような話を改まってするようなことでもないわけですが、特にレースを宣伝の場とするような「政治的な動き」が見受けられるのは、特にクラブ法人関連馬に多いのです。
「勝たせること」
「出走させること」
どちらが主の目的であるのか。
クラブ法人の馬に関しては、特に両極端で露骨なケースも多くなる時期ですので、そのあたりを念頭に入れながら、トライアルシーズンに臨んでいただきましょう。
また、当然『使い分け』もポイントになってくるわけですが、
関東馬であれば中山、関西馬であれば中京というような輸送によるリスク軽減を念頭に置いた単純なローテーションがポイントになるのではなく、ここでいう「使いわけ」とは勿論『政治的な使い分け』のことを意味します。
特にこの秋は、春GIで活躍していた馬ばかりに注目するのではなく、その馬たちの影に隠れていた存在の動向に目を向けていただくことが重要。
3歳牝馬に目を向ければ、二冠馬デアリングタクトがトライアルには出走せずに秋華賞に直行という選択肢をとっているだけでなく、
桜花賞2着馬レシステンシア(キャロットファーム)
→骨折からの復帰を目指している途中で秋華賞回避。
桜花賞3着馬スマイルカナ
→京成杯AH(マイル重賞)に出走。
オークス2着馬ウインマリリン(ウイン)
→フレグモーネの影響もあり、入厩時期未定。秋競馬は白紙。
オークス3着馬ウインマイティー(ウイン)
→今週「紫苑S」に出走。
春のGIで上位を賑わした馬たちは、ウインマイティー以外はトライアルに出走しないのです。
春のオークスでは、上記メンバーの次点にいた馬の動向は、
オークス4着馬リアアメリア(シルクレーシング)
→次週の「ローズS」を予定。
オークス5着馬マジックキャッスル(社台レースホース)
→今週「紫苑S」に出走。
このような予定が組まれています。
トライアル重賞が続々と行われていく時期ですので、牝馬路線の[紫苑S][ローズS]、牡馬路線の【セントライト記念】【神戸新聞杯】に主要なクラブ法人が擁立している馬を下記一覧表で、ご覧ください。
サンデーレーシング
・フィリオアレグロ【セントライト記念】
社台レースホース
・マジックキャッスル[紫苑S]
・デゼル[ローズS]
・リリーピュアハート[ローズS]
・シャムロックヒル[ローズS]
・ファルコニア【神戸新聞杯】
シルクレーシーシング
・リアアメリア[ローズS]
・スカイグルーヴ[紫苑S]
・レクセランス【神戸新聞杯】
キャロットファーム
・シーズンズギフト[紫苑S]
GIレーシング
・クロスセル[紫苑S]
・フェルマーテ[紫苑S]
・セウラサーリ[ローズS]
・ラインオブダンス[ローズS]
東京ホースレース
・レッドルレーヴ[紫苑S]
社台グループオーナーズ
・ラヴユーライヴ[紫苑S]
ウイン
・ウインマイティー[紫苑S]
広尾レース
・パラスアテナ[紫苑S]
・パンサラッサ【神戸新聞杯】
サンデーレーシングの3歳牝馬のトライアル重賞出走予定はなし。この世代は春からこのような状況でしたので、驚くことでもありません。
また牡馬では、ダービーで3着と好走し次週のセントライト記念への出走を予定していた池江厩舎のヴェルトライゼンデが熱発の影響でこちらは回避。一方で、青葉賞3着以来の復帰を目指す堀厩舎が管理する1勝馬のフィリオアレグロが、鞍上にM.デムーロ騎手を確保し、次週のセントライト記念出走に向けて準備を進めております。
一覧で見ると、トライアルに最も多くの所有馬を擁立しているのが、最近はGIタイトルから遠ざかっている『社台レースホース』であることは一目瞭然。
紫苑Sには1頭のみ、一方ローズSには3頭という偏り。
この4頭の内訳は、関東馬が1頭、関西馬が3頭となりますので、そこだけを見れば違和感はないかもしれませんが、スンナリと決まったわけではなく、ここにも他との兼ね合いを踏まえた『政治的な使い分け』によって偏りが出てしまっているのです。
キャロットファームは、2歳女王レシステンシアというGI馬をこの世代では輩出しているわけですが、レシステンシアは秋華賞を回避。さらには古馬では、サートゥルナーリアも天皇賞秋を回避する方向。
シンザン記念勝ちのサンクテュエール、スプリングS3着のサクセッションといった重賞活躍馬を複数抱えていながら、この秋トライアル重賞に出走する見込みは、シーズンズギフトのみという誤算も生じています。
また故障や脚元不安のアクシデントにより、予定が狂ったことで、あまり多くの所有馬を擁立できていないクラブ法人もあれば、GI本番に直行させるケースや、「トライアル重賞」を使わず、あえて2勝クラスのレースを狙って、賞金順での事実上の出走権利獲得を狙う陣営もいます。
そして、個人馬主の所有馬に目を向けると、
「紫苑S」では、
冠名ホウオウの小笹芳央氏が、
・ホウオウピースフル
・ホウオウエミーズ
紫苑SとローズSに使い分けることなく、どちらも紫苑Sに出走させています。
また二冠馬コントレイルを擁する【ノースヒルズ】は、
・チェーンオブラブ[紫苑S]
・アブレイズ[ローズS]
・コントレイル【神戸新聞杯】
・ディープボンド【神戸新聞杯】
チームプレーを狙ったり、使い分けを行ったりと、変幻自在な戦略で臨むことができるのも、ノースヒルズには、この世代で勝ちあがっている馬が多くいるからこそ。
この他にも3歳世代では、セントウルSに出走させるビアンフェもいるわけですが、ここに名を連ねていない存在としてコルテジア(きさらぎ賞勝ち)やシュリ(3勝クラス)といった面々もいるように、豊作世代であり、戦略が組みやすいのです。
同じ世代のクラシック戦線とはいえ、明らかに春とは異なる勢力図によるクラシックが繰り広げられていきますので、今週からのトライアル重賞は目を離さずに注目ください。
騎手の配置に着目すると、見えていなかったところが、見えてくるかもしれません。
騎手の起用に関しては、「乗り替わり」と「継続騎乗」というところに視点が行くと思います。
騎手に目を向けた際に、今週特筆しておくべきポイントを簡潔にまとめると、
・リーディング3位の福永祐一騎手が騎乗停止により不在。
・リーディング2位の川田将雅騎手が重賞で乗り馬ナシ。
・M.デムーロ騎手も重賞で乗り馬ナシ。
このあたりになるでしょうか。
川田騎手、M.デムーロ騎手、このあたりの騎手に「なぜ任せない」のか。
遠まわしな表現を使おうと思ったのですが、一周回って、遠まわしな表現を見つけることができませんでした。
ですので、直球を投げます。
川田騎手も、M.デムーロ騎手も、【いまは政治的な働きができない】から。
これ以外でも、これ以上でもありません。
理由は至ってシンプルです。
それでは、今週は紫苑S、そしてセントウルSについて触れていきます。
まず土曜日に行われる紫苑Sは、3着馬まで優先出走権が与えられる秋華賞トライアル。
出走馬18頭中、クラブ法人馬が半数の9頭。
社台系生産馬も半数の9頭というメンバー構成。
ローズSとの使い分けなどの話は上記の通りですが、【C.ルメール騎手の使い方】に注目ください。
土曜日は、
中山5R 2歳新馬
ブラウシュヴァルツ
馬主:キャロットファーム
厩舎:黒岩陽一(美浦)
中山11R 紫苑S
シーズンズギフト
馬主:キャロットファーム
厩舎:黒岩陽一(美浦)
[キャロット×黒岩厩舎]の2頭にセットで、C.ルメール騎手が騎乗することに。
紫苑Sの出走メンバーの中には、
レッドルレーヴ(東京ホースレース/藤沢和雄厩舎)
→デビューから2戦騎乗。
スカイグルーヴ(シルクレーシング/木村哲也厩舎)
→デビューからの3戦すべてで騎乗。
このようなお手馬もいる中、過去4戦中1度しか跨っていないシーズンズギフトが託されているあたりが、ポイントです。
前走のNZT2着と好走した後に骨折が判明したため、NZT以来の復帰戦となりますが、この馬が春にどのようなローテーションが組まれていたのかに注目し、そこに違和感を抱かれた方は、どのくらいいるでしょうか。
2000m(デビュー戦)→1800m→1800mというローテーションで、フラワーC3着と重賞でも好走しながら、オークストライアルのフローラSに向かわず、距離をさらに短縮してマイル重賞のNZTに出走していたのです。
「使い分けの犠牲」
違和感の根底は、この言葉に集約できます。
3歳牝馬の『エピファネイア』の使い分け
『シルクレーシング』の使い分け
『ノーザンファーム』の使い分け
使い分けにも事情は色々あるわけですが、「主役ではない」からこそ、本流には向かうことができずに、犠牲を払う立場であったのです。
春のクラシック戦線では、そのような運命を辿っていた馬であるという事実が前提です。
なぜ、C.ルメール騎手をシーズンズギフトに配したのか。
今回の紫苑Sで託されたミッションの重み。
そこに「答え」があるのです。
土曜日は中山競馬場で騎乗するM.デムーロ騎手には、紫苑Sの騎乗馬が与えられることはありませんでした。
出走メンバーを見渡してみてください。
乗る馬がいなかったわけではありません。
理由は先ほど記載した通りです。
また私吉田は、【種牡馬部門】が専門ですので、種牡馬群という視点で出走馬をご覧ください。
ディープインパクト系【5頭】
・マジックキャッスル(ディープインパクト)
・ラヴユーライヴ(ディープインパクト)
・ショウナンハレルヤ(キズナ)
・スマートリアン(キズナ)
・マルターズディオサ(キズナ)
キングカメハメハ系【4頭】
・レッドルレーヴ(キングカメハメハ)
・ホウオウエミーズ(ロードカナロア)
・クロスセル(ルーラーシップ)
・パラスアテナ(ルーラーシップ)
ステイゴールド系【3頭】
・ホウオウピースフル(オルフェーヴル)
・フェルマーテ(ゴールドシップ)
・ウインマイティー(ゴールドシップ)
エピファネイア産駒【2頭】
・スカイグルーヴ(エピファネイア)
・シーズンズギフト(エピファネイア)
その他【1頭ずつ】
・コトブキテティス(ハービンジャー)
・ストリートピアノ(クロフネ)
・ミスニューヨーク(キングズベスト)
・チェーンオブラブ(ハーツクライ)
紫苑Sに集められた18頭のメンバーに関しては、「種牡馬毎のバランスもとられていること」に着目してみてください。
最後にスプリンターズSの前哨戦として行われるセントウルS。
例年であれば阪神競馬場で行われる一戦ですが、今年は中京競馬場が舞台。
春のスプリント王者決定戦である高松宮記念と同じ舞台というのが、肝といっても過言ではないかもしれません。
左回りの1200m戦。
福永祐一騎手が騎乗予定であった2019年高松宮記念優勝馬ミスターメロディは、北村友一騎手が安田記念に続き、騎乗することになりました。
北村友一騎手の中京におけるスプリント戦といえば、
2019年高松宮記念
ダノンスマッシュ(1番人気4着)
2020年高松宮記念
ダイアトニック(4番人気3着)
高松宮記念で、このような騎乗成績であった後、ダノンスマッシュ、そしてダイアトニックはいずれも他の騎手に託されるようになり、今に至ります。
ダノンスマッシュは、川田騎手に乗り替わり。
ダイアトニックは、武豊騎手に。
ダノンスマッシュも今年のセントウルSに出走しますが、安田記念で騎乗した三浦皇成騎手が引き続き跨ることになり、先述の通り、日曜日は中京競馬場で騎乗する川田騎手に、セントウルSの騎乗馬が回されることはなかったのです。
ダノンスマッシュ以外にも、川田騎手のお手馬候補ともいえる「シヴァージがいるにも関わらず」の話です。
カナヤマホールディングスの所有馬である外国産馬シヴァージは、昨年まではダート戦で使われていました。
通算18戦のうち、過半数の10戦は川田騎手が跨っている馬。
川田騎手から手が離れた後は、藤岡佑介騎手が跨っていましたが、今回藤岡佑介騎手はノースヒルズの3歳牡馬ビアンフェに騎乗。
ともすれば、手の内に入れている川田騎手の手綱に戻すのが既定路線であるところ、そうはせずに、白羽の矢が立ったのは、テン乗りの岩田望来騎手です。
なお話が少し前後しますが、ミスターメロディの最終追い切りに跨ったのは、北村友一騎手ではなく、岩田望来騎手です。
ミスターメロディの状態を、なぜ岩田望来騎手に確認させたのか。
またシヴァージは岩田望来騎手には託せるが、いまの川田騎手には託せないという事実から浮き彫りになるシヴァージのミッション。
三浦皇成騎手には託せて、川田騎手には託せないダノンスマッシュに託されたミッション。
シヴァージではなく、ビアンフェに騎乗する藤岡佑介騎手に託されたミッション。
また川田騎手は騎乗馬がいませんが、北村友一騎手からダイアトニックが渡った武豊騎手には、トゥラヴェスーラが用意されているところもまた武豊騎手の政治力ともいえましょう。
函館SS
ダイアトニック1着
キーンランドC
ダイアトニック15着
このような経緯を辿っている一方で、
北九州記念
トゥラヴェスーラ6着
セントウルS
トゥラヴェスーラに騎乗。
中京競馬の開幕週に行われるのが、GII重賞のセントウルSです。
セントウルSで、どのような決着が残されれば、スプリンターズSをより盛り上げることができるようになるのか。
セントウルSは1つの点で見るのではなく、
スプリンターズS(2019年)
↓
高松宮記念
↓
セントウルS
↓
スプリンターズS (2020年)
この4つの点が1つの線になっていることをイメージしながら、注目してみてください。
JTTC日本競走馬育成評議会
種牡馬部門
吉田晋哉