REVELATION DIRECTIVE
REVELATION DIRECTIVE[菊花賞週:2020/10/24-25号]
掲載日:2020年10月23日
■開催競馬場:東京/京都/新潟
■開催重賞:富士S /菊花賞
■執筆担当:吉田晋哉
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<REVELATION RACE LIST>
■土曜 新潟11R 新潟牝馬S
■土曜 東京11R 富士S
■日曜 京都11R 菊花賞
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平素は格別のご高配を賜り、厚く御礼申し上げます。
JTTC種牡馬部門担当の吉田晋哉です。
15年前の今日、10月23日。
この日に何があったのか。
皆様は覚えていらっしゃいますでしょうか。
2005年10月23日。
『世界のホースマンよ見てくれ!これが日本近代競馬の結晶だ!!』
当時実況を務めていた馬場鉄志氏が、ディープインパクトが菊花賞で無敗の三冠を達成した瞬間に発したセリフ。
この言葉が発せられた瞬間に一気に鳥肌が立った当時のことは、つい先日の出来事であったかのように思い出します。
「手綱を通して血が通う。武豊とディープインパクト」
これは道中に馬場氏が口にした名言。
よくもまぁ次から次へと上手い表現が出てくるなぁと感心しながら、レースを見守っていたことも覚えています。
1周目のスタンド前。ゴールが近づいていると勘違いしていたのか、行きたがるディープインパクトを必死に武豊騎手がおさえようとしているシーンは皆様の記憶にも残っていると思いますが、あの時ディープインパクトの内にいたのは福永祐一騎手が騎乗していたアドマイヤフジ。
ディープインパクトが内に入るのをブロックすることもできるポジションにいましたが、当時28歳の若手であった彼はその選択をとりませんでした。
そして15年後の10月25日に、そのディープインパクトの仔であるコントレイルとともに菊花賞に臨むことになる43歳の福永騎手。
15年という月日はあっという間でしたが、この15年の間に日本競馬界は発展し、勢力図もまた大きく様変わりしました。
「ハーツクライよ、ハリケーンランよ、待っていろ!」
これはディープインパクトが翌年の天皇賞春を勝った際に、同じく馬場氏が残した言葉です。
前年の有馬記念で土をつけられたハーツクライ。
そして前年の凱旋門賞優勝馬ハリケーンラン。
名実ともに日本の競走馬が[世界基準]に到達していることを意識し、当時世界一と言われていたハリケーンランを倒し、ディープインパクトが世界一になることを見守ったあの時代。
しかしながら、その瞬間が訪れることはなく、種牡馬としての価値を見出すために4歳で引退し種牡馬入り。
日本よりも種牡馬ビジネスが発展している海外では、4歳という早い時期に引退させるケースは珍しくないのですが、日本ではディープインパクトのように「まだやれる」という時期に引退の決断がされることは極めて稀。ほぼいません。
2005年 第66回菊花賞。
2020年 第81回菊花賞。
この間、延べ14頭の菊花賞馬が輩出されてきたわけですが、クラシック最終戦という位置づけは変わらないとはいえ、近年は「菊花賞」というレースの価値観が変わりました。
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2005年 [ディープインパクト]三冠達成。
2006年 [ソングオブウインド]メイショウサムソン4着敗戦。
2007年 [アサクサキングス]ウオッカは別路線へ。
2008年 [オウケンブルースリ]ディープスカイは別路線へ。
2009年 [スリーロールス]ロジユニヴァースは故障で出走できず。
2010年 [ビッグウィーク]エイシンフラッシュ直前回避。
2011年 [オルフェーヴル]三冠達成。
2012年 [ゴールドシップ]ディープブリランテ直前回避。
2013年 [エピファネイア]キズナは凱旋門賞挑戦。
2014年 [トーホウジャッカル]ワンアンドオンリー4着敗戦。
2015年 [キタサンブラック]ドゥラメンテは骨折休養で出走できず。
2016年 [サトノダイヤモンド]マカヒキは凱旋門賞挑戦。
2017年 [キセキ]レイデオロは回避して別路線へ。
2018年 [フィエールマン]ワグネリアンは別路線へ。
2019年 [ワールドプレミア]ロジャーバローズは怪我で引退。
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※[ ]内は菊花賞優勝馬。
この15年間でダービー馬が菊花賞に臨んだのは、
2005年ディープインパクト
2006年メイショウサムソン
2011年オルフェーヴル
2014年ワンアンドオンリー
そして、
2020年コントレイル。
この僅か5回に絞られるわけですが、今年はダービー2着馬サリオスこそ別路線に向かったものの、ダービー上位馬4頭が菊花賞に顔を揃えております。
2020年日本ダービー
1着コントレイル
3着ヴェルトライゼンデ
4着サトノインプレッサ
5着ディープボンド
ダービー馬が菊花賞に出走することが、当たり前ではなくなっている時代に、これは当たり前のことではありません。
コントレイル
馬主:前田晋二(ノースヒルズ)
生産:ノースヒルズ
厩舎:矢作芳人
ノースヒルズ系3頭出し
・コントレイル(馬主:前田晋二 生産:ノースヒルズ)
・ディープボンド(馬主:前田晋二 生産:村田牧場)
・キメラヴェリテ(馬主:加藤誠 生産:ノースヒルズ)
矢作芳人厩舎2頭出し
・コントレイル
・サトノインプレッサ
クラシックは「出走できるなら出走させたい」という側面もあるとはいえ、コントレイルを取り巻く関係者がこれだけの複数頭出しで臨むチーム編成という異様な切り札。
矢作厩舎が毎日王冠からの中1週というローテーションでサトノインプレッサを出走させるというカードの切り方に、違和感を抱かれた方がどれだけいらっしゃるでしょう。
出走馬をただ眺めているだけでは、見えないまま。
サトノインプレッサは菊花賞トライアルには使わなかった。
にも関わらず、菊花賞に出走させる意図。
「レース中の戦略」ということではなく、「レース前」の駆け引きとして贅沢に使われたのです。
要するに、[1枠]をどうしても譲りたくなかった馬が存在していたということです。
菊花賞の特別登録馬は29頭。
出走馬はフルゲート18頭。
11頭が漏れたとはいえ、実際に抽選で非当選となったのは2頭。
抽選漏れの確率をあげるためには、出すしかなかったのです。
・アンティシペイト(国枝栄厩舎/出走の際には武豊騎手が騎乗予定)
・ココロノトウダイ
答えは明確でしょう。
・(出走)サトノフラッグ
・(出走)ダノングロワール
・(非当選)アンティシペイト
国枝栄厩舎が菊花賞に登録していたのが、この3頭。
弥生賞、そしてダービーでサトノフラッグと手を組んだのは武豊騎手だったわけですが、この秋はサトノフラッグが戸崎騎手に回り、武豊騎手に用意されていたのは同じ国枝厩舎のアンティシペイト。
サトノインプレッサを所有するのは里見治氏(サトミホースカンパニー)ですが、
・サトノフラッグ
・サトノインプレッサ
今年はサトノフラッグが出走できる以上、毎日王冠からの強行でサトノインプレッサを無理に送り込む必要性はなかったにも関わらずの話です。
京都の長距離戦。
無敗の三冠ジョッキーが不在となる菊花賞は、寂しく感じる方もいると思いますが、競馬は決して綺麗ごとで語れるものではないのです。
昨日の友は、今日の敵。
昨日の敵は、今日の友。
貸し借りの場面によって、入れ替わるのです。
ダービー馬が菊花賞に出ることが珍しくなった近年。
その菊花賞で何が起きていたのかといえば、[ディープインパクト産駒]の菊花賞3勝です。
[父サンデーサイレンス×母ウインドインハーヘア]という同じ血を受け継ぐという観点でいえば、ディープインパクトの全兄ブラックタイド産駒のキタサンブラックもそうです。
[父サンデーサイレンス×母ウインドインハーヘア]という配合の種牡馬から、過去5年で4頭の菊花賞馬が輩出されているのです。
ディープインパクトが種牡馬入りした当時、世間からは「ディープインパクト産駒はマイラー」というレッテルを張られていたことを覚えている方もいらっしゃるでしょう。
初年度産駒であった3歳牡馬リアルインパクトが、2011年の安田記念で古馬を撃破するなど、マイルGIで強さを発揮していたディープインパクトの血は、「マイラー」という印象が残されていたのです。
これを払拭するための施策。
ディープインパクト産駒は長距離GIを勝てないと言われ続けていた2011年から2014年。
それをまずひっくり返したのが、ブラックタイド産駒のキタサンブラックとディープインパクト産駒のリアルスティールがワンツー決着をみせつけた2015年でした。
その後は、
2016年 サトノダイヤモンド
2018年 フィエールマン
2019年 ワールドプレミア
長距離GIをディープインパクトの血が席巻し続け、種牡馬としてのイメージチェンジを図ることができたのです。
「ダービー馬の菊花賞参戦」というエンターテイメントよりも、種牡馬産業というビジネスを優先。
これが、近年繰り広げられていた菊花賞の正体です。
2020年の菊花賞では様変わり。
ディープインパクトが出現する前と後では、競馬そのものが変わったように、来年2021年から2030年までの[新たな10年間]は、日本競馬が一気に変革していくことになります。
コントレイルの結果を問わずして、これは決まっていること。
そのための準備が、2019年の後半から今年2020年にかけて着々と進められていたのです。
その象徴的なレースが、いくつか行われて参りましたが、GI格のレースとして行われたのは2つ。
2019年12月1日(日)
中京11R チャンピオンズカップ(GI)
1着クリソベリル
2着ゴールドドリーム
3着インティ
3連単8980円的中
2019年12月28日(土)
中山11R ホープフルS(GI)
1着コントレイル
2着ヴェルトライゼンデ
3着ワーケア
3連単2760円的中
この2戦の共通点。
あのホープフルSを優勝した馬が、こうして無敗のまま三冠をかけて菊花賞に挑むことになるとは感慨深いものがあります。
菊花賞とホープフルS。
大きな舞台という意味では菊花賞の方が注目度も大きなレースではありますが、「重み」という意味では、ホープフルSの方が緊張感に包まれていました。
コントレイルが菊花賞を勝った先に見える未来。
コントレイルが菊花賞を負けた先に見える未来。
無敗の三冠が懸かっているプレッシャーという割りに、種牡馬ビジネスの観点で申し上げるならば大きく変わるようなことはないのですが、それでも15年ぶりに見たい景色がございます。
2020年10月25日(日)
15:40発走
第81回 菊花賞(GI)
「楽しむことファースト」で共に見守りましょう!
今回は序盤からあれよあれよと菊花賞の話をしましたが、<REVELATION RACE LIST>はあと2つあります。
土曜日に東京競馬場で行われるマイル重賞の富士S。
1着馬にマイルCSの優先出走権が与えられるレースです。
毎日王冠 芝1800m
富士S 芝1600m
距離は1ハロン異なるわけですが、出走馬全体を見れば露骨な「使い分け」が浮き彫りになります。
「統一感がない」という印象を抱かれている方もいることでしょう。
それは仕方のないことです。
なぜならば、何かを優先させるために、犠牲になってきた馬が多く揃っているためです。
紫苑Sで秋華賞の権利をとったシーズンズギフト。
弥生賞2着ながら皐月賞には出走せず、ダービー→新潟記念という奇抜なローテーションが組まれているワーケア。
宝塚記念→札幌記念という中距離にシフトしていたマイルGI馬のペルシアンナイト。
ここに、NHKマイルC優勝馬ラウダシオン。
NHKマイルC2番人気4着馬タイセイビジョン。
この3歳牡馬2頭が出走するのです。
菊花賞に出走するサトノインプレッサは毎日王冠→菊花賞という強行策がとられたわけですが、サリオスが擁立されていた毎日王冠ではなく、富士Sを目指す選択肢があったにも関わらず・・・
とはいえ里見氏はサトノアーサーを富士Sに出走させており、重鎮たちが関わる各馬の出走調整の裏には、数々の「貸し借り」が発生したこともまた事実です。
毎日王冠、府中牝馬S、そして富士S。
この3戦、そして秋華賞、菊花賞の参戦可否を巡って生まれた「貸し借り」が、11月12月でどう返されていくのかを、皆様には是非ともご覧いただきたいのです。
次週には天皇賞も控えている状況で、11月12月の話をすることは少し早いのですが、
「貸し借り」の倍返し。
この場合は「倍返し」という言葉よりも、【恩返し】をチョイスする方が相応しいかもしれません。
「施されたら、施し返す。恩返しです!」
これは香川照之さんのドラマでのセリフですが、【恩返し】という言葉、是非とも覚えておいてください。
昨年、天皇賞秋当日に京都競馬場で行われた「カシオペアS」の衝撃。
2019年10月27日(日)
京都11R カシオペアS
1着テリトーリアル
2着ベステンダンク
馬単2万5980円的中
このレースも、先述のチャンピオンズCやホープフルSと共通するレースでしたが、あれから1年が経過したと思うと、時間が経つのはあっという間ですね。
ここまで菊花賞と富士Sの核心について、話をしてまいりましたので、もう「お腹いっぱい」という方もいらっしゃるかもしれませんが、最後にこのレースに触れないわけにはいきません。
土曜日に新潟競馬場で行われるメインレース。
に・い・が・た・ひ・ん・ば・S
地名+牝馬Sというレース名は、
府中牝馬S
阪神牝馬S
京都牝馬S
中山牝馬S
福島牝馬S
と沢山あるわけですが、「新潟牝馬S」という響きは、どうも聞き慣れませんし、言いなれていません。
今年新設されたので当たり前ですが、芝2200mというエリザベス女王杯と同じ距離で行われます。
この時期に行われるため、エリザベス女王杯の「トライアル」ということならば、スムーーズに受け入れられるものですが、重賞でもなく、トライアルでもありません。
2021年以降の新たな時代に、このレースがどのような位置付けに変わっていくのか。
これは試行錯誤していくことになるのでしょうが、これもまたJRAの新たな試みです。
3歳以上牝馬限定オープンクラスの別定戦。
ハンデ戦ではありません。
しかしながら、オープンクラスの馬ばかりではなく、3勝クラスの馬が5頭も出走するのです。
≪オープンクラス≫
・エスポワール
・フィリアプーラ
・ロサグラウカ
・ウラヌスチャーム
・サラス
・リープフラウミルヒ
・サトノワルキューレ
・ミスマンマミーア
<3勝クラス>
・シングフォーユー(社台レースホース)
・ティグラーシャ(サンデーレーシング)
・パルティアーモ(サンデーレーシング)
・コンダクトレス(キャロットファーム)
・カーロバンビーナ(社台レースホース)
3勝クラスながら、斤量の恩恵がないにも関わらず出走するのは、いずれもノーザンファーム、社台ファームの生産馬ばかり。
「第1回」という新設されるレースという背景があることから、出走馬については、「意図的に選抜されている」という視点で見ていただきたいのです。
つまりは、統制されているレースであるということになります。
・3勝クラスの格下。
とはいえ、甘く見ない方が良いと申し上げておきましょう。
また、先週の府中牝馬Sは8頭立てで行われました。
新潟牝馬Sではなく、府中牝馬Sへの出走が既定路線と思える馬が、新潟牝馬Sに名を連ねております。
馬名は明言しませんが、シルクレーシングのサラキアに忖度する必要があった馬が出走するという違和感。
そしてサラキアを管理しているのは池添学厩舎ですが、新潟牝馬Sは管理馬ティグラーシャを擁立しているというところに、露骨な駆け引きがあります。
今週行われるレースの中では、一番の[チーム戦]といっても過言ではありません。
強い馬が勝つとは限らない。
それが競馬の面白さではありますが、新潟牝馬Sのキーワードは『ひっくり返る』と提示します。
馬場鉄志氏のように、鋭い言葉選びができるように、精進して参りたいと思います。
それでは、菊花賞週もJTTCで競馬をご堪能ください。
JTTC日本競走馬育成評議会
種牡馬部門
吉田晋哉